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新エネ・省エネ最前線 東広島の挑戦 <下> ベンチャーの力

 「当社の制御技術を採用すれば工場のエネルギー使用量を大幅に削減できます」。制御コンサルタントのADAPTEX(アダプテックス、東広島市)の小比賀理延(おびか・まさのぶ)社長(30)が提案書を広げ大手企業の重役に売り込む。「どれだけ効果が出るか試してみよう」。承諾の返事に、緊張した頬が緩んだ。

 同社は工場の省エネ方法を提案するベンチャー企業だ。設備の圧力や温度を制御するプログラムを独自に開発したソフトで診断して改善し、燃料や電力の無駄をそぎ落とす。石油や化学など大手企業を中心に取引し、金額は非公表ながら、効果に応じて対価を得ているという。

 プログラムの書き換えは長くて1週間程度だが、「年間数億円の経費を削り驚かれることも少なくない」と小比賀社長。約10社、約30工場を手掛け、年間で最大6億円のコスト削減を実現した企業もある。

 起業したのは2005年、広島大大学院教育学研究科で制御工学を学ぶ学生だった。温暖化防止のため二酸化炭素の排出を抑えようと、産業界は省エネに力を入れていた。「制御技術で社会に貢献しよう」。教官の山本透教授(50)の勧めで研究室仲間と創業。当初6人だった社員は、元大手企業の技術者を加えるなど陣容を厚くしている。

 3月の福島第1原発事故を機に、事業を取り巻く環境は転換期に差し掛かっている。企業に電力供給への不安が広がったからだ。小比賀社長は「当社の技術はさらに必要とされるはず」。今後は新設プラントの計画にも携わる構えだ。

 「乾いた雑巾を絞るように省エネを進めた企業にも、さらに改善を提案できる。それが強み」。激変するエネルギー環境にニーズを見いだし、市場を切り開く。(境信重)

(2011年9月17日朝刊掲載)

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