×

連載・特集

急拡大の平和市長会議 加盟5000都市達成 <下> 被爆地頼み

自発的行動 どう促す

 「加盟都市には財政負担をお願いしない約束でここまできているが、11月にスペイン(グラノラーズ市)である理事会で運営費の在り方を話し合いたい」

 平和市長会議の会長を務める広島市の松井一実市長は今月2日の記者会見で、会議の運営費を被爆地の広島、長崎両市だけが負担する現状の見直しに向け議論を始める考えを示した。

財政負担なし

 国境を超えた都市のネットワークが5千都市にまで広がった要因の一つには、加盟都市が会費など財政負担を求められない敷居の低さがある。

 一方、広島、長崎両市は本年度、会議の運営費など約1200万円を折半で負担。事務局を置く広島平和文化センター(中区)の担当嘱託職員の人件費や米ニューヨーク在住で国連担当の非政府組織(NGO)職員への報酬などを含む。

 さらに市は本年度、松井市長の会議関連の海外出張費760万円を計上。さらに広島平和文化センターを通じ、オーストリアと米国、ブラジルの平和活動家3人に専門委員の報酬として計年約1千万円を支出する。

 このほか、ベルギーのイーペル市役所に開設する「2020ビジョンキャンペーン」の事務局の運営費には、海外加盟都市の寄付や欧州議会の助成金を充当。09年度の年間予算は10万6千ユーロ(1100万円)だった。

 こうした財政面の現状について広島市の杉浦信人・平和市長会議担当課長は「長年の懸案だが、国により物価や法律が違い、年会費などを一律に決めるのは難しい」と話す。加盟都市が財政負担に反発して脱退する懸念も口にする。

 だが会議の活動に協力する広島市のNPO法人ANT―Hiroshimaの渡部朋子代表は「核兵器廃絶を目指すには市民やNGOを巻き込み、政治を動かすダイナミックな活動が不可欠。両被爆地頼みでない組織運営と活動費の裏付けが必要だ」と指摘する。

地域ごと連携

 4月に就任した松井市長は、活動と費用負担の両面で加盟都市の自発的行動を促す手だてを探る。11月の理事会では、欧州やアジア、北米など各地域ごとに加盟都市が連携を強める方策を話し合う予定だ。

 松井市長は「国際政治を動かすのはあくまで国であり都市は受け手」と述べ、国際政治に直接アプローチする志向は強くない。世界各国が会議の存在を考慮せざるを得なくなるような各地域での活動の積み上げを目指す。

 だが会議が目標に掲げる核兵器禁止条約の実現にはまず、被爆国の主体的取り組みが不可欠だ。米国の「核の傘」に依存し、禁止条約の構想を「時期尚早」とする日本政府を動かすには「受け手」では限界がある。

 国際政治の舞台で5千という「数」をどう生かすのか。被爆地の理念と加盟都市の自発的行動を両輪として世界への発信力が問われる。(金崎由美)

平和市長会議の加盟都市
 16日現在、151カ国・地域の5003市。地域別で最多は欧州の2295市。アジア1492市▽中南米482市▽アフリカ327市▽北米282市▽オセアニア125―となっている。国別では日本が最多の1056。原爆投下国の米国は188。世界の主要都市では、ロンドン(英国)モスクワ(ロシア)メキシコ市(メキシコ)バンコク(タイ)ナイロビ(ケニア)リオデジャネイロ(ブラジル)北京、重慶(中国)などが加盟する。

(2011年9月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ