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連載・特集

視点2011 「被爆建物 見えぬ活用策」

老朽化進む広島市内89施設 保存・継承へ 議論急務

 被爆建物の旧電気試験所広島出張所(広島市西区三篠町)の解体工事が8日から始まった。原爆ドーム(中区)に代表される市内の被爆建物は公共、民間所有を合わせ89施設。被爆66年が経過し、老朽化が著しい施設も多い。貴重な歴史の証人としてどう保存、活用していくのか。議論が急がれる。

 爆心地から1・8キロの旧電気試験所は1937年に建設された鉄筋2階建て。被爆当時は火災で4人が犠牲になった。修繕を重ねて利用してきたが、土地と建物を所有する中国電力子会社の中国企業(中区)が2008年、敷地内の別の4棟とともに解体を決めていた。来年夏、跡地にスーパーが進出する。

 同社不動産事業部の初崎敏文次長は「古い建物で事務所のOA化に対応できないため」と説明。外壁のタイルと玄関の御影石で記念碑を残す予定だ。

 市内に点在する被爆建物の把握に市が乗り出したのは被爆48年後の93年。市民運動に押される形でようやく、保存・継承の要綱を策定した。

民間には助成

 爆心地5キロ以内の建物を台帳で管理。96年には最多の98施設の登録があった。民間の建物の場合、所有者から申請があれば3千万円を上限に保存工事費用の4分の3を助成する。ただ市に解体を止める権限はなく、石田芳文・被爆体験継承担当課長は「保存してもらうようお願いするしかない」と話す。

 被爆建物の善法寺(西区己斐本町)は爆心地から2・7キロ。2年前、本堂の瓦の張り替えや爆風で傾いたはりの修理で2400万円の助成を受けた。前田至法住職(37)は「寺は被爆を伝える無言の証人。これで100年以上持ちこたえられる」と喜ぶ。

 同寺のように地域や生活に根付く民間施設とは対照的に、扱いに頭を悩ませる被爆建物もある。その一つが広島大本部跡地(中区千田町)の旧理学部1号館だ。

 31年完成の1号館は爆心地から1・4キロに位置する。理学部が91年、東広島市のキャンパスに統合移転したのに伴い閉鎖。現在は独立行政法人の国立大財務・経営センター(千葉市)が所有する。

 壁面のタイルが剥げ落ち、割れた窓ガラスから雨風が吹き込むなど荒れ放題の状態。民間事業者主導で再開発を進めたい市にとっては「お荷物」的存在といえる。

 そのため市は昨年3月、再開発計画を修正。事業者を呼び込むため、1号館を東千田公園の敷地内に取り込み、市が活用策を考えることにした。だが老朽化した建物を再利用するには耐震補強に多額の経費がかかることもあり、具体的な方向性は浮かんでいない。

「場当たり的」

 世界遺産の原爆ドーム以外に被爆建物をどう保存し、平和行政やまちづくりに活用するのか。「市の対応は場当たり的で、ビジョンを持っていないことが最大の問題だ」と市民団体「原爆遺跡保存運動懇談会」座長の頼祺一・比治山大教授は指摘。「被爆の記憶を後世に残すため、保存、活用する建物の優先順位を付けるなど検討を急ぐべきだ」と訴える。

広島市の被爆建物
 市が登録するのは爆心地から5キロ以内。今年6月現在、89施設。国や広島市、独立行政法人など公共機関の所有が20施設、民間が69施設。爆心地1キロ以内で残る施設は少なく、原爆ドーム▽平和記念公園レストハウス▽旧日本銀行広島支店▽広島アンデルセン▽本川小の一部▽袋町小の一部▽福屋百貨店▽中国軍管区司令部跡―の8施設。寺や神社など木造建物が55件に上る。(金崎由美)

(2011年10月10日朝刊掲載)

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