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連載・特集

原子力防災の行方 島根原発30キロ圏 <中> 周辺市の戸惑い

UPZで新たな負担

 「国がリスクを認めるのだから、国はもちろん、県と電力事業者にもきっちりと注文を付けていく」。中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の南東約25キロにある安来市役所で、近藤宏樹市長(66)は語気を強めた。

 福島第1原発事故を受け、島根原発30キロ圏内の松江、安来、出雲、雲南、境港、米子の6市は5月、島根、鳥取両県と原子力防災連絡会議を設置。住民の広域避難について協議してきた。

 ところが、10月21日、松江市であった防災担当者による作業部会は混乱した。島根県が初めて示した避難計画案には、6市のうち安来、米子市が外れていた。20キロ圏内約25万人の避難を前提にしていたからだ。

 その前日、原子力安全委員会が、防災対策重点区域を原発から半径30キロ圏に拡大し、緊急防護措置区域(UPZ)とする案を示したばかりだった。市域が20キロ圏外にある安来、米子両市は「なぜ20キロ圏内なのか。UPZと食い違う」と反発。3日後、溝口善兵衛知事はあらためて30キロ圏・約46万人の避難を検討する考えを発表した。

 防災区域の見直しで、安来市は市域の約半分がUPZに入る。近藤市長は「被害を受ける可能性がある市民を守るためには当然だ」と強調した。

「線引き」に疑問

 なぜ30キロ圏なのか―。島根原発が立地する松江市の松浦正敬市長(63)は疑問を隠さない。「10キロや30キロの線引きに何の意味があるのか。福島の被害は同心円状に広がったわけではない」と指摘。市の全域がすっぽりとUPZに入る。「裏付けのある計画と整備の工程表を一緒に示すべきだ。案だけでは、地元に無用な混乱を与える」

 一方で、鳥取県危機管理局の城平守朗局長(54)はUPZの拡大を歓迎する。防災体制の整備に加え、中電と協議中の原子力安全協定締結をにらむ。

 運転再開への同意や原発への立ち入り検査など、一定の影響力を持った安全協定を中電と結んでいるのは島根県と松江市だけだ。

「協定に追い風」

 鳥取県は福島の原発事故後、境港、米子両市とともに中電に協定締結を求めた。城平局長は「事故の際、的確な対応をとるには情報が必要だ。UPZは協定締結の追い風になる」とした。

 これに対し、中電は「自治体の意向を把握し、期待に応える」との姿勢を示す。しかし、原発の運転に影響力を持つ自治体が増えれば、増設はもとより、停止中の原子炉の再稼働も困難になる可能性がある。苅田知英社長(63)は10月31日の記者会見で「(UPZの)30キロと安全協定は必ずしも一致しない」と述べた。

 国の新たな防災指針でUPZが正式に定められると、周辺6市には、新たな防災計画の策定に加え、防災対策に必要な資機材の配備、避難道路の整備などが待ち受ける。これまで原子力行政とは無縁だった市には、専門的な職員の育成という課題もある。

 雲南市の速水雄一市長(65)は「リスクを排除するための対策に国が責任を持つのは当然だろう」と強調。財源に対する国の支援を期待している。(川上裕)

原子力安全協定
 島根原子力発電所(松江市鹿島町)では、電力事業者の中国電力と島根県、松江市が3者で結ぶ。原子炉施設の増設・変更の事前了解▽異常発生時の迅速な情報連絡▽原発への立ち入り調査―などが盛り込まれている。島根原発での点検不備問題を受け、出雲市は1月、中電と情報連絡協定を結んだ。福島第1原発事故後、鳥取県と米子市、境港市は5月、中電に協定締結を要請。出雲、雲南、安来の3市も締結を求めている。

(2011年11月10日朝刊掲載)

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