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連載・特集

カザフ・クルチャトフ 軍事秘密都市 変貌 原子力民生利用の拠点に

 核実験による被曝者を多く抱え、核兵器廃絶を国際社会に訴え続けるカザフスタンは一方で、原子力の平和利用も積極的に進めている。かつて核実験に携わった研究者たちが暮らしていた軍事秘密都市クルチャトフ市を訪れると、国を挙げて民生利用に力を注ぐ拠点に変貌していた。

 セメイ市からヘリコプターで約40分。上空からは壊れた建物が目立つ。地上に降り、国立原子力センター総裁のカイラット・カディルジャノフ氏らに案内されたのは、真新しい建物だった。その一つが2005年に完成し、研究施設などがある原子力テクノパークだ。「トカマク」と呼ばれる今は実験段階の核融合炉や、原子力の平和利用分野での日本との協力関係を示すパネル展示もあった。

 カザフスタンは今、原発1基の新設を計画中。視察にも同行した政府系シンクタンク、ナザルバエフセンター副長のロマン・バシリエンコ氏(40)は福島第1原発事故後も「計画は変わっていない。(地球を温暖化する)二酸化炭素の排出が少なく、コストも安い原発は、将来のために必要だ」と強調した。

 ただ、市民の思いは複雑のようだ。核実験場閉鎖運動にも携わった、与党ヌル・オタン党の「社会分析予測センター」のセンター長カズベク・カズキエノフ氏(64)は「建設に反対する人も多い」と明かす。しかし電気を近隣国から買っている現状や経済成長に伴う電力需要の拡大に触れ、「原発は建設せざるを得ない。福島の悲劇を繰り返さないよう、各方面からの監視が必要だ」と指摘した。

 原発の燃料になるウランの生産量が世界一のカザフスタン。核実験の被害者は多いが、豊かな地下資源を活用するため、懸命に原子力の平和利用を推し進めようとしている。

 原爆で壊滅的な打撃を受けながら、原子力の平和利用を結果的に容認してきたかつてのヒロシマ。その姿とカザフの今の姿が重なって見える。(増田咲子)

クルチャトフ
 核兵器開発を陣頭指揮し、「ソ連原爆の父」と呼ばれる原子物理学者イーゴリー・クルチャトフ博士の名前を付けた都市。かつては核実験に従事する軍関係者と家族だけが住む、一般人立ち入り禁止の「軍事秘密都市」だった。広島・長崎への原爆投下の翌1946年、南側に隣接する広大なセミパラチンスク核実験場とともに誕生した。91年の核実験場閉鎖で2万人を超えていた人口は一時、半分以下になった。最近は、平和利用の研究のため、1万人程度に回復しているという。

(2012年9月11日朝刊掲載)

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