×

連載・特集

原発ゼロの衝撃 中国地方に見る <上> 上関

分水嶺に立つ町政運営

交付金頼み 宙に浮く事業

 「行政サービスは維持できない。町民が普通に暮らすこともおぼつかなくなる」。政府がエネルギー戦略を決めた14日、山口県上関町の柏原重海町長(63)は会見で苦渋の表情を浮かべた。

 中国電力の上関原発計画が浮上してちょうど30年。原発建設に伴う国交付金を軸に町政運営を進めてきた過疎・高齢化の町は、将来がまるで見通せない分水嶺(れい)に立たされた。

 人口約3500人。農業、漁業が主力の町は1984年度からこれまで約56億円の交付金を受け取ってきた。そのお金で集会所や温浴施設を整備し、町営バスを運行。町営の診療所も維持してきた。

 「町政の経常経費にも充てている。すべて無くなると思っていないが…」と町幹部。年間予算40億円規模の町が、現在の住民サービスを維持しようとすれば毎年数億円は財源が不足する見込みだ。

 福島第1原発事故を受け、高まる「脱原発」の声。県は建設予定地の埋め立て免許延長を現状では認めない方針を表明。周南市や光市などでは議会が計画の「中止」「凍結」を求める意見書を相次いで可決した。

 そうした声を受けての政府の新戦略決定。推進派の重鎮である右田勝町議(71)は「脱原発の声を無視するわけにいかなかったのだろう」と受け止める。

 福島の事故を重く受け止めてはいる。事故後、反対派の町議と一緒に視察に出向き、原発のない場合も想定する検討会の会合でも席を並べて議論を重ねてきた。だが「30年間も国を信じ、エネルギー政策に協力してきた。すぐに『はいそうですか』とはいかない」。

 歴史民俗資料館、離島航路の桟橋、公民館…。新たに入る予定だった交付金約86億円で描いた事業は宙に浮き「何より期待した、雇用や人口流入などの波及効果も消える」と町幹部は悔しさをにじませる。

 一方の反対派。上関原発を建てさせない祝島島民の会代表の清水敏保町議(57)は政府の決定を歓迎しつつ「上関原発計画が本当に中止されるのか、まだ油断はできない」と警戒心を緩めない。「原発計画が30年間も住民を引き裂いてきた。そんなに簡単な話じゃないんです」

 ただ、今後直面するであろう財源問題や、2人に1人がお年寄りという過疎の町の現実も認め、「原発なき町にかじを切り(推進派とも一緒に)踏み込んで議論するときなのは間違いない」と前向きに話す。

 中電上関原発準備事務所は「建設を断念することは現時点で考えていない」。政府が示した新戦略を、具体的な課題や懸念に対する解決策などが先送りされたと指摘する。

 新戦略には「不断の検証と見直しを行う」とも明記された。30年間原発に左右され続けた町は、その可能性をめぐっても揺れる。(久保田剛)

    ◇

 2030年代に原発ゼロを目指す政府の新たなエネルギー戦略により、中国地方の原発計画は大きな転換が迫られる。その衝撃と計画の行方を見る。

(2012年9月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ