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連載・特集

らしく暮らす デンマークの環境 ロラン島の挑戦 <下>

藻バイオマス・燃料電池…

 タンクの水は深緑色に染まっていた。中で培養されているのは藻だ。2年前に設置されたデンマーク・ロラン島の藻イノベーションセンター。エネルギー源などに活用するための研究を重ねている。

 センターを案内してくれたロラン市の市議レオ・クリステンセンさん(59)は、水中で育つ生物資源「ブルーバイオマス」に大きな期待を抱く。「木材など陸上のバイオマスに比べて育つスピードがはるかに速く、10~12倍の量をつくることができる」と説明する。

 藻は燃料にするだけでなく、燃やさず一定の処理を施してメタンガスや二酸化炭素、タンパク質やリンなどを取り出し、エネルギー資源や医薬品に利用できるという。

雇用創出に貢献

 ロラン島では海に流れ出す運河に堤防を建設し、堤防の内側160ヘクタールで8万トンの藻を生み出そうとの壮大な計画を進める。「広島のカキなど、日本は養殖の経験が豊富。海水で藻を培養できれば新たな産業が生まれますよ」とクリステンセンさん。

 地域全体を「エネルギー・ラボ(研究所)」に―。ロラン島では行政と大学、企業が手を携え、野心的な技術開発を続ける。グリーン社会をつくることにとどまらない。雇用の創出も目標の一つだ。

 1999年に22%だったロラン市の失業率は8年後に2・8%へ。クリステンセンさんは「よい投資をすれば、雇用も多く生み出せる」と強調する。

 住民たちも協力している。現在進行しているのは、水素を使った燃料電池を家庭で活用する実証実験だ。

 水素は、風力発電の余った電力で水を分解してつくりだす。その水素をパイプラインを通して家庭に送る。各家庭には、水素と空気中の酸素を反応させて水をつくる装置を設置。その過程でできる電気と熱を家庭で利用する。

 今は35軒が実験に参加。試みはデンマーク政府も後押しし、2年後に1万軒の家庭での実用化を目指しているという。

教育 子どもから

 住民の理解をどう促しているのだろうか。広島から視察に訪れた参加者も興味を募らせた。

 視察団が案内されたのは「H2インタラクション」。水素の活用など、自然エネルギーについて子どもから学べる体験型の施設だ。

 中央にあるカラフルな模型は、風力や太陽光や波力、水素による電力が家庭や工場で使われたり、余ったりする状態をひと目で分かるようにしてある。ほかにも、タッチパネル上で、H2O(水)をH(水素)とO(酸素)に手を使って切り離し、水の電気分解を学ぶゲームもある。やってみると大人でも楽しい。

 クリステンセンさんは「大人を再教育するのは大変。思考が柔軟な子どもたちの教育が鍵になる」と実感を込める。子どもが施設で学んだことを家で説明すると、祖父母や両親は「何てうちの子は賢いんだろう」と喜び、自然エネルギーへの関心を高めてくれるという。

 デンマークは昨年、新たなエネルギー政策を打ち出した。現在2割の再生可能エネルギーを、2020年までに5割、50年までに100%にする目標を掲げる。クリステンセンさんは熱く語る。「小さな島が、地方が、未来をリードしていく時代です」(平井敦子)

<ビジュアル気候センター>
 ロラン市にあるビジュアル気候センターには、世界に82個だけという巨大な地球儀=写真=が据えてある。米航空宇宙局(NASA)の研究所に集まるデータを、地球儀上に映し出す。北極の氷が解けて今後100年で海面がどのぐらい上昇するのか、世界でどのぐらい電気が使われているか…。福島第1原発事故で放射性セシウムが世界にどう拡散したかもひと目で分かる。グリーン社会をつくりだす必要性を考えてもらうのが目的だ。

(2012年10月22日朝刊掲載)

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