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連載・特集

日中関係の行方 尖閣問題から考える <上> 広島大大学院教授 寺本康俊さん (日本外交史)

人的パイプ育て活路を

若い知性の交流が大切

 沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)の国有化に中国が強く反発し、日中関係は著しく悪化している。改善の糸口が見えない中、中国に関心の深い地元の研究者は現状をどう考え、どう動こうとしているのか。3人に聞いた。(聞き手は道面雅量)

 今年は日中国交正常化から40年になる。両国は国交正常化に向けた過程でも、程度の差はあれ関係の中断を繰り返した。当時も尖閣諸島の帰属が問題になったのは周知の通りだ。短期、中長期の視点を区別し冷静に対応すべきだと感じている。

 少なくとも、長く積み重ねた関係を過激な言葉が台無しにしてはいけない。広島大を例に取れば、約千人の留学生のうち半数以上が中国から。今後、中国社会のさまざまな場でリーダーになりうる人たちだ。こうした時こそ、彼らが触れる日本人の言動が試されている、と自覚したい。

 短期的に見れば、今、中国は指導部の交代期であり、国内的にも国際的にも体制の強固さをアピールしないといけない。尖閣問題にも強気の姿勢を崩せない時期だ。

 今回の件は、東京都知事の尖閣諸島購入宣言、日本政府の国有化、と日本側からアクションが起きた。よりによってこの時期に、という思いは中国側には強いだろう。

 中長期的には、中国の強い態度の背景に、国内総生産(GDP)で世界第2位となった経済力の伸長や、海軍をはじめ軍事力の拡充があるのも確かだ。ただ、中国にとっても「反日暴動」のような事態は国際的な信用を失い、外資などの投資環境にも悪影響を与える。あまりに強硬、刺激的な態度を長く続けることはできないだろう。日本として固有の領土を守る態度を堅持しつつ、両国の関係修復のチャンスを捉えていくことは可能だ。

 日中関係のあるべき姿は日米関係を抜きに語れない。今後の日米関係を強める意味でも、日本は独自に、中国と一定の友好関係を維持しておく必要があると思う。その方が、東アジアにおける日本の存在価値を高めることにつながるからだ。

 日米同盟が揺らいでいるから中国が強気に出るという論も根強いが、対中関係を軽視し、米国に過度に依存することが日米同盟の強化ではない。

 今回、米国は、尖閣諸島は日米安保の範囲内とし、中国側に軍事的解決をけん制する一方、領有権の所属については中立的な立場を取っている。日本が抱える領土問題について、第2次大戦後の米ソ冷戦下で当事国日本の意向を顧みられずに決められた曖昧な状況は、もはや過去のものだ。

 日本は自らの外交力によって活路を開かなければならない。そのためにも、日中の人的パイプはできるだけ太くしておきたい。それは大学間についてもいえる。広島大は現在、私の所属(大学院社会科学研究科法政システム専攻、法学部)だけでも中国の5大学1研究所と交流協定を結んでいるが、こうした時こそ未来を見据え、両国の若い知性の交流を支えていきたい。

てらもと・やすとし
 53年安芸高田市生まれ。島根県立国際短大(現島根県立大)助教授、ロンドン大客員研究員などを経て現職。広島大法学部長も務める。

(2012年11月20日朝刊掲載)

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