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連載・特集

激動2012 中国地方の現場から オスプレイ

米軍の拠点 膨らむ不安

 真冬の風が高層ビル屋上に吹きつける。そこから望遠レンズ越しに見ていた米海兵隊岩国基地(岩国市)。すでに「あの機体」は消えている。数カ月前、焼け付くような日差しの下でウオッチし続けた12機の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ。基地滑走路からは民間機も飛び立ち、今夏の物々しさはない。

 オスプレイは今回の衆院選でも争点の一つとなった。岩国基地のある山口2区。初当選した自民党新人の岸信夫氏(53)は選挙戦で、「安全性についての説明のないまま、陸揚げしたことに問題がある」と民主党政権の対応を批判した。

 その陸揚げがあったのは7月23日。4、6月に墜落事故が相次ぎ、不安と陸揚げ反対の声も強かった。地元を無視した強行は住民の心に怒りを刻み、深い無力感を残した。

 陸揚げ2カ月後の9月19日、日本政府は米側の調査結果を追認し「安全宣言」。21日には試験飛行が始まり、基地周辺などで、プロペラの重い回転音を響かせた。住宅地上空の飛行や基地区域外でのモード変換など「日米合意違反ではないか」と住民が指摘する飛行も再三目撃された。

 12機は10月1日から6日にかけて配備先の普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)へ順次飛び立ち、岩国から姿を消した。普天間では市民が飛行場のゲートを封鎖するなど激しい抗議活動が続いた。市街地の中に位置する、ただでさえ「世界一危険」と言われる飛行場。事故が続くオスプレイの配備に「配備は差別」「岩国など本土で負担を分担しろ」との声もこだました。

 オスプレイは日米安全保障条約のもとに苦しみを押しつけられ続ける沖縄の実情を全国に知らしめた。現在、沖縄では市街地上空や夜間の飛行が常態化。ヤンバルと呼ばれる本島北部の森での訓練も頻繁に行われている。

 本土訓練では岩国は中継基地として運用される見通し。政府が12月中との見解を示していた本土訓練はまだ始まっていないが「毎月2、3日間、岩国飛行場で訓練」「年間500回の運用」―。米軍の環境審査報告書にはそう明記してある。

 極東の米軍の拠点となった「イワクニ」。その基地の滑走路を米軍と共用する岩国錦帯橋空港が13日、開港した。1日4往復の東京便が行き来する。

 開港から5日後の18日、パネッタ米国防長官は開発中の最新鋭ステルス戦闘機F35を2017年、岩国基地に配備する計画を明らかにした。14年には空母艦載機59機も移転する予定だ。基地では艦載機受け入れに向けた工事が進み、ビル屋上からは林立するクレーンが見える。(大村隆)

オスプレイ
 米軍の垂直離着陸輸送機の通称。主翼の両端に角度が変えられる回転翼を備えている。CH46中型輸送ヘリの代替機で、速度と輸送兵員数は2倍、航続距離は5倍以上。墜落事故が相次ぎ、開発段階で30人が死亡。ことし4月のモロッコ、6月の米フロリダでの事故では計9人が死傷している。米軍は計24機を沖縄に配備する予定。

(2012年12月23日朝刊掲載)

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