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連載・特集

激動2012 中国地方の現場から 原発政策

かすむ「ゼロ」 住民苦悩

 「原発ゼロの方針はどうなるのか。何も決まらないまま時間だけ過ぎるのか…」。衆院選の投開票日から一夜明けた17日朝、中国電力が原発建設を計画する山口県上関町の主婦(63)は、自宅で自民党大勝を報じる新聞を不安を抱いて眺めた。

 「裏切られた」との思いがよぎる。9月、民主党政権は原発の新設を認めない「2030年代の原発ゼロ」目標を決めた。原発誘致をめぐり30年揺れ続けた町の行方にも、結論が出たかに見えた。「脱原発が進むんだ」。期待が膨らんだ。

 ところがその直後、政府は原発ゼロ目標の閣議決定を見送った。年の瀬の衆院選で、自民党の政権復帰が決定。原発ゼロの軌道修正が進むとの見方が広がる。「国が変わると期待したのに。何だったのか」

 人口約3400人の町は再び揺れ始める。「風向きが変わった」と原発推進派。「脱原発の民意は変わらない」と反対派。中電は、計画継続に必要な公有水面埋め立て免許の延長を10月に申請しており、山口県の対応も焦点になる。ぶれ続ける政治の中で、住民には戸惑いと不信が広がる。

 島根原発のある松江市にも波紋が広がる。9月、政府が原発の運転期間を最長40年とする方針を決め、1号機の動向がクローズアップされた。

 14年3月に運転開始から丸40年を迎える1号機。地元では廃炉を望む声が高まった。再稼働の安全審査は9月に発足した原子力規制委員会が担う。ただエネルギーの安定供給を重視する自民党の下で「寿命40年」がどこまで厳格に適用されるかは見通せない。

 10月には、原子力規制委が過酷な事故時の、放射性物質の拡散予測を公表。高線量エリアは、南東に最大約24キロの安来市まで達することが判明した。「どこまで逃げたら安全なのか気が気でない」。住民に衝撃が広がった。

 再稼働をめぐっても不安が広がる。「経済発展を重視する自民党政権は、原発を再稼働する議論を急ぎかねない」。市民団体「平和フォーラムしまね」の代表、杉谷肇さん(71)=松江市=は懸念する。「脱原発を求める声の受け皿がない」

 衆院選後、中電は事態を静観している。ただ「原発維持の必要性が認められれば、上関計画は再浮上する可能性がある」(幹部)との声ももれる。

 東日本大震災で崩れた原発の「安全神話」。政治は揺れ、一度決まった脱原発の行方はかすむ。翻弄(ほんろう)される地元住民の苦悩は、来年も続く。(久保田剛、樋口浩二、東海右佐衛門直柄)

政府の原発ゼロ目標
 関係閣僚でつくるエネルギー・環境会議は9月、新エネルギー戦略をまとめ「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするようあらゆる政策資源を投入する」と明記。①40年の運転制限を厳格に適用②原子力規制委員会の安全確認を得たものだけ再稼働③新設・増設は行わない―とした。閣議決定は事実上見送られた。

(2012年12月24日朝刊掲載)

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