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連載・特集

2012年 広島県内重大ニュース

黒い雨

指定拡大を認めず

 原爆投下直後の広島に降った「黒い雨」。政府は今夏、広島市などが求めた、援護対象となる指定地域の拡大を認めない方針を決めた。被害を訴える住民の思いに応える取り組みは、再スタートを余儀なくされた。

 厚生労働省の有識者検討会が7月、約1年半にわたる協議を終えた。指定地域を6倍に広げるよう求めた市などの調査報告を「科学的根拠がない」と結論付けた。厚労省は代わりに、放射線被曝(ひばく)への不安を軽減する相談事業の実施方針を決めた。

 原爆投下から67年。市や住民は、厚労省が言う「科学的根拠」を示す難しさをかみしめた。市は2013年度に予定した、黒い雨などが降った範囲などを検証する気象シミュレーション実験を断念。当時の気象データがそろわなかったためだ。

 黒い雨を浴びたという広島、長崎の約1万3千人のデータを保管していたことが明らかになった放射線影響研究所(南区)も今月7日、「発がんリスクが高まる傾向はない」とするデータの解析結果を公表した。

 市は来年から、援護対象地域の拡大に向けた取り組みの再構築を迫られる。「国も科学者も援護の視点を持ってくれん」。被害を訴える住民たちが21日、安芸太田町で開いた会合では失望の声が相次いだ。その思いをどうくみ取るか。残された時間は少ない。(田中美千子)

(2012年12月30日朝刊掲載)

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