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連載・特集

ヒロシマ平和メディアセンター5周年 世界へ 

 中国新聞社がヒロシマ平和メディアセンター(平和MC)を設立して、1日で5周年を迎えた。被爆体験に基づくノーモア・ヒロシマの訴えを、ウェブサイトを通じ世界に発信。次世代への継承にも力を注いできた。(宮崎智三、二井理江、増田咲子)

被爆地の声発信 熱い反響

 日本語と英語のサイトは、センター設立後すぐに開設。原爆・平和・核問題に関連した情報の国内外発信を目指してきた。インターネットを活用して、ヒロシマの訴えを英語で海外に一層広げ、核兵器も戦争もない世界に少しでも近づこうとする試みである。

 地方紙としては異例の壮大な挑戦に見えるかもしれない。しかしそれは、被爆地広島に拠点を置き、原爆で当時の従業員のほぼ3分の1に当たる114人が犠牲となった新聞社としての使命でもある。「世界平和の確立」は社是にも掲げている。

 被爆から67年余り、今なお世界には2万発近い核兵器があり、核実験や原発事故による被害も依然深刻だ。テロや紛争も絶えない。だからこそ、これまでの原爆・平和・核報道の蓄積を生かしつつ、ヒロシマの声を発信し続けたい。

 サイトには、ニュースや論評記事、原爆の記録写真などを掲載。海外の160近い国・地域からアクセスがある。

 センターが5周年の節目を刻んだのを機に、今後もさらに、サイトと紙面の拡充を図る。ヒロシマの声を世界に広げつつ、世代を超えたバトンタッチも進めていく。

サイトに対する海外からの感想

 米国の大学生 ジョン・シンプソンさん(21)
 被爆証言を聞く「記憶を受け継ぐ」は、米国人と被爆者の態度に差があると感じる。米国人は残念ながら、まず暴力で物事を解決してしまう。仕返しのための暴力は必要という認識があるのだ。被爆者の話には米国への攻撃的な言及はない。生きていることに感謝し報復を望んでいないことも印象的だ。

 アルゼンチンのブエノスアイレス市幹部 フォセフィーナ・デルガドさん
 ニュースが蓄積され、サイトは図書館のようだ。平和についてのニュースを発信し続けていて尊敬する。スペイン語もあれば、ラテンアメリカからも、よりアクセスしやすくなる。

 チリの教師 シャラピア・カキモヴァさん(41)
 サイトから、9年近く過ごした広島の情報や平和関連の最新の動きを得ている。中でも被爆証言が最も重要だ。ヒロシマが表現している、平和や、許すけど決して忘れない力、生きるエネルギーの三つを与えてくれる。

 中国の会社員 李瑋さん(25)
 被爆直後だけではなく、復興した現在の広島の写真も、たくさん載せてほしい。見た人は、希望を感じられるのではないか。また、子どもたちは世界の未来を担う存在。原爆や平和をテーマにした絵画コンクールを開き、それをサイトで紹介するといい。絵を描いた子どもたちの戦争や平和に関する思いを発信してほしい。

 ベトナムの公務員 リー・グエンさん(38)
 「枯れ葉剤半世紀」の特集を英語で読んだ。広島や長崎の人が今も原爆の後遺症に苦しんでいるように、私の住むトゥアティエン・フエ省の人々も、米軍がまいた枯れ葉剤の影響に苦しんでいる。

 オーストラリアの国際反核組織リーダー ティム・ライトさん(27)
 サイトは、平和や軍縮の動きに関して欠かせない情報源になっている。英訳された記事は、私たちに核兵器の恐ろしい影響を思い出させ、より平和な未来へと手を携えて努力するよう駆り立てる。

 カザフスタンの学生 ヌルダナ・アディルハノワさん(17)
 平和な未来を築くため、世界の人々は手をつないで頑張らなければなりません。平和MCのサイトは、平和について学ぶことの大切さを多くの人に伝えています。核実験の被害を受けたカザフスタン、原爆が投下された広島、長崎の悲劇を繰り返してはいけません。カザフスタンと広島の若者は昨夏、平和フォーラムを開くなど核兵器廃絶へ連携しています。こうした関係は平和な未来への一歩。サイトで紹介されているので多くの人に知ってもらいたい。

 フランスの会社員 デービッド・メランさん(37)
 10年以上前に広島を訪れ、被爆者に会った。フランスの核実験について議論になった。リビアやイランの脅威など、欧州では受け入れられる正当性も、核による悲惨な結末を実際に目撃した被爆者には通用しなかった。その後、定期的にサイトを見るようになった。核兵器廃絶というゴールのため、重要な役割を果たすと思う。

 エチオピアのNPO幹部 ムセ・ハイルさん(41)
 核兵器のない平和な世界の実現に大いに貢献している。サイトは、核問題に関するいい情報を提供してくれる。さらに、核兵器廃絶や平和文化創造に努めている世界各地の平和団体の情報も増やしてほしい。

 カナダのNGO「平和哲学センター」代表 乗松聡子さん(47)
 バンクーバーを拠点に、平和のための教育・執筆活動をしている者にとって、「ヒロシマ」に関する最新のニュースや論評記事、被爆者の体験や原発事故の現状などが、日英両語で掲載されるヒロシマ平和メディアセンター(HPMC)のウェブサイトは大変役立っています。英語でニュースを発信している新聞社は全国紙をはじめ他にもありますが、HPMCが断然便利なのは、多くの記事の英語版と日本語版が直接リンクされていることです。日英2カ国語で発信する者にとってこれほど有難いことはなく、他社のサイトでは驚くほどになされていません。
 また、HPMCは核兵器をなくす平和のためのサイトという特定のミッションをもっています。毎年夏に、立命館大学とアメリカン大学(ワシントンDC)合同の「広島・長崎平和研修旅行」に助言者の立場で参加していますが、その旅の過去の参加者向けフェースブックページでは常にHPMCのウェブサイトにリンクし、核廃絶への世界の動きや米核実験への反対運動など、米国内にいたら入手しにくいような情報を米国人メンバーに提供しています。
 広島・長崎の体験や核廃絶のことを考えるのは8月だけであってはいけません。常に関心を保持し行動を促すためにも、HPMCによる最新情報やアーカイブ情報の発信は、核のない世界をつくるための世界的な運動になくてはならない存在であると確信しています。

 イタリアの翻訳・通訳家 山田真貴子さん(58)
 子どもたちが学校で受ける「異文化共生」の授業で、講師として日本について教えています。小、中、高校生のクラスでは、原爆について詳しく説明します。電子黒板を用い、サイトを紹介します。被爆直後の広島の写真、被爆後もたくましく生きる被爆アオギリなどを見てもらいます。子どもたちは、サイトを参考にしながら論文をまとめています。移民が多いイタリア。人間教育の観点からも、平和学習を通して命の大切さを知ることは、子どもたちの人間性を育む上で重要だと思います。

 カザフスタンの学生 アシクパエワ・アイダナさん(19)
 サイトを見て、広島の原爆についてたくさんのことを知りました。被爆者の証言からは、原爆が人々の生活にどれほど甚だしい被害を与えたかが分かりました。サイトでは、ヒロシマだけでなく、原発事故があったフクシマやチェルノブイリ、核実験の被害を受けた母国のカザフスタンについての記事を読むこともできます。世界中の人々が平和な世界をつくるために、どんな活動をしているかが分かり、勉強になります。

 アルゼンチンのNGO代表 相川知子さん(45)
 サイトを時々見ては、講演会やスピーチの参考にしています。日本や世界で起きている核を巡る問題はもちろん、広島の市民が被爆前後に当時どのような暮らしをしていたかが写真とともに紹介されていて、勉強になります。私たちの団体のホームページにも、平和MCの英語版サイトをリンクさせ、興味のある人に参照してもらえるようにしています。私たちは市民の視点を求めています。世界のオピニオンリーダーとして、これからも私たちの道を照らして下さい。

 中国の主婦 北野直美さん(32)
 中国にいると、被爆者から直に話を聞く機会はなかなかないので、10代が被爆証言を聴く「記憶を受け継ぐ」というコーナーは、とても貴重だ。当時の辛さを思い出し、語りたくないという被爆者もいるかもしれない。そんな中で、いたたまらない気持ちになるような体験を語ってくださる方々の言葉は、やはり重い。原爆の恐ろしさ、平和の大切さを身に染みて感じさせられる。中高生が、平和のために自分たちにできることを考える機会があるのもよい。論評シリーズ「ヒロシマと世界」では、米国人の平和活動家が、ヒロシマを語ることで「原爆投下は当然だ」と思っていた米国人たちの態度が変わった、とあった。広島出身なので、小さい頃から原爆について学んできたけれど、中国に住んでいると、広島だけが戦争の被害を受けているわけではない、と思うこともあった。しかし、被爆国の日本人として、戦争のむなしさを語っていく必要があるのだとあらためて気付かされた。原爆についての基礎知識を説明した「学ぼうヒロシマ」のようなコーナーがもっと充実しているとよいと思う。

<アクセス上位5ヵ国>
①米国
②カナダ
③英国
④韓国
⑤ドイツ

※2012年1月~12月28日、Google調べ。日本は除く

(2013年1月1日朝刊掲載)

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