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連載・特集

フクシマとヒロシマ2年 <2> 司法

賠償請求へ知見生かす

 「ヒロシマの蓄積は、司法面でも必ずフクシマに生かせる」。橋本貴司弁護士(42)はそう強調する。2月、広島弁護士会所属の弁護士18人でつくる「原発損害賠償請求を支援する弁護士の会」に加わった。

 被爆者26人が原爆症の認定を求め、広島地裁で係争中の訴訟の代理人の一人を務める。「放射能被害は単純な同心円状ではない。内部被曝(ひばく)の場合、健康被害は数十年後にも表れる」。広島の被爆者と向き合ってきた経験から、フクシマへの法的支援の在り方に思いを巡らせる。

 被爆地広島では、多くの弁護士が被爆者に寄り添ってきた。例えば原爆症認定の集団訴訟。各地の弁護士と連携して勝訴を重ね、2008年4月の認定要件の大幅緩和につなげた。

 闘いは今も続く。認定要件の緩和後も、却下処分を受ける被爆者が相次ぐ。原告の一人田部恂子さん(84)=広島市南区=は言う。「認定を勝ち取ることが、フクシマの被害に国が真剣に向き合うことにもつながる」

 法的支援の必要性は、放射能の直接的な被害にとどまらない。福島第1原発事故に伴う、政府の原子力損害賠償紛争解決センターへの和解仲介の申し立てもその一つ。弁護士の会は、福島県から広島市に避難した男性(26)を支援し、1月中旬の和解成立を後押しした。

 同会の支援では初の和解。ただ、満足できる結果ではなかった。請求額約115万円に対し、認定されたのは避難時の交通費と引っ越し代、放射線検査費の計9万9740円。原発から約40キロで暮らしていたため、自主避難とみなされた。

 男性の代理人の工藤舞子弁護士(30)は「自主避難者の精神的苦痛を含め、より広く賠償を認めるべきではないか」と指摘する。

 震災2年となる11日、福島県から関東地方に避難した被災者が国と東電に損害賠償を求める集団訴訟を起こす。広島でも、同じような訴訟が提起される可能性はある。

 「被爆者救済の枠組みを広げてきたヒロシマの役割が今、求められている」と弁護士の会事務局長の佐藤邦男弁護士(32)。10月に広島市である日弁連の人権擁護大会は「ヒロシマから考える福島原発被害の救済」がメーンテーマとなる。(長久豪佑)

原爆症認定の集団訴訟
 被爆者援護法に基づく原爆症の認定申請を却下した国の処分は不当として、2003年以降、広島など全国17地裁に306人が提訴。06年に広島地裁が原告全員の却下処分を取り消すなど原告勝訴の判決が相次ぐ。これを受け国は08年、爆心地から3・5キロ以内での被爆など、一定の基準を満たせば積極認定するよう基準を大幅に緩和した。

(2013年3月5日朝刊掲載)

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