×

連載・特集

フクシマとヒロシマ2年 <3> 文化の継承

紙芝居が記憶の懸け橋

 「ばあちゃん、早く逃げろ。原発が爆発した」「大丈夫があ」

 鬼気迫る声で、紙芝居を繰る読み手。会場にすすり泣きが響く。

 2月末、福島県の郡山女子短期大学部の1年生19人は、広島市中区の広島国際会議場の一室で紙芝居を見た。

 紙芝居は、福島第1原発事故後に福島県浪江町から避難し、古里に帰ることなく、昨年6月に84歳で亡くなった女性の手記に基づく。広島訪問に先だち、大学側が紙芝居を制作した広島市の市民団体「まち物語制作委員会」に上演を依頼した。

 「同じ福島県にいながら、避難生活の苦労をくわしく知らなかった」と大塚久美さん(19)。「私も古里のためにできることを考えたい」と誓った。

 制作委のメンバーは2011年12月から、仮設住宅を5回にわたって訪問。被災者から地域の民話や避難体験を集めた。

 これまで作った紙芝居は50作。大半は民話だ。12年12月には、福島県いわき市で地元NPO法人などと「ふくしま紙芝居まつり」を開いた。

 「紙芝居に触れ、古里から長期間引き離された人々に古里への愛を保ち続けてほしい」。作画も担当する制作委の福本英伸事務局長(56)=廿日市市=は、そう説明する。

 「広島も原爆で街並みと人が消え、語り継がれてきた無数の物語も消えた」と福本事務局長。被爆地と被曝(ひばく)地を重ね合わせ「住民が心を再び一つにするには、共通の物語がいる」と文化継承の支援を続ける。

 紙芝居づくりは、福島県内の住民にも広がり始めた。福島第1原発がある大熊町で生まれ育った母親たちが、民話を集め、紙芝居100作を作る活動を始める。いつ帰ることができるか分からない古里を忘れないための取り組みという。

 「絆を守るツールとして、活動内容に共感してくれたことはうれしい」と福本事務局長。ヒロシマ発の活動がフクシマで根付くよう、手を差し伸べ続けるつもりだ。(井上龍太郎)

東日本大震災の被災地の紙芝居作り
 広島市の市民グループ「まち物語制作委員会」と「ボランデポひろしま」が2011年12月に始めた復興支援プロジェクト。3年間で100作を目標に、東北地方の民話や逸話、避難所話を被災者から聞き取り、紙芝居に仕立てる。制作委は現在、約30人が活動している。

(2013年3月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ