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連載・特集

地域と原発 福島事故から2年 <下> 中電

コスト改革が急務

根強い再稼働待望論

 経常損失380億円、純損失280億円―。中国電力が1月末に明らかにした2013年3月期の業績予想には厳しい数字が並んだ。連結決算の最終赤字としては過去最大になる。本業のもうけを示す営業損益は初めて赤字に転落する。

原料費が急増

 「経営的にはかなり厳しい状態」。エネルギーをテーマに今月10日、広島市中区であったシンポジウム。信末一之常務は市民約130人を前に打ち明けた。「原子力から火力への振り替えコストが増えている。円安でさらに負担が増える懸念がある」。重い口調で苦境を伝えた。

 島根原発(松江市鹿島町)が昨年1月に全面停止し計128万キロワットの発電能力を失った。50年近く運転する古い火力発電所も「フル動員」して夏冬の電力ピークをしのいだが、石油などの原料費が前年より約650億円かさんだ。

黒字見通せず

 中電によると、収支の改善は原発頼みだ。ただ、島根原発の再稼働には国が7月にまとめる新安全基準への対応が欠かせず、内容や審査方法が不透明な現時点では将来が描けない。上関原発(山口県上関町)も準備工事を中断したままだ。

 かつてない逆風を受け、苅田知英社長は「資材や燃料の調達など業務全般の効率化に会社を挙げて取り組む」と強調する。これに対し、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児シニアアナリストは「デフレでも維持してきた人件費を含め、抜本的なコスト改革が必要だ」と迫る。

 中電は石油より安い液化天然ガス(LNG)や石炭の調達を増やすなど燃料費の圧縮に加え、中国地方に3カ所ある保養所の全廃や出張旅費の切り下げ、引っ越しを伴う異動を減らすなど合理化の検討も始めた。

 しかし、中電内には「コスト改善だけでは黒字転換はできない」との原発待望論が依然根強い。今は「検討していない」とする電気料金の値上げも避けられないとの見方が広がりつつある。

 「消費者は原発事故を受けて節電に取り組むなど生活の形を変えた」と、広島消費者協会(広島市中区)の中原律子会長。原発の再稼働にこだわる姿勢や巨額の寄付金を上乗せする電気料金の算定方法などを挙げ「中電も変わらないといけない」と求める。

 福島第1原発の事故から2年。原発が動かせない電力会社は、企業の在り方の転換を迫られている。

 この連載は、山瀬隆弘、久保田剛、樋口浩二が担当しました。

(2013年3月15日朝刊掲載)

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