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連載・特集

『生きて』 ドキュメンタリー作家 磯野恭子さん <14> 教育長

学力向上に心血を注ぐ

   山口放送(周南市)役員在任中の1990年10月、岩国市の教育委員になった。2004年4月からは教育長を務めた

 教育委員の依頼を受けたときは、面白いと思った。幼児教育をテーマにした15分番組を手掛け、78年に半年間放送した経験もありました。幼児教育や生活習慣、生涯学習の大切さを実感していたので、現場に関わりたいと思った。新しい職域に挑戦する魅力もありましたね。

 教育長就任の依頼は(着任の)2週間前に市長から電話でありました。私は民間人で女性。その視点を生かしてほしいと。山口県内に女性の教育長は過去にいない。ちょうど教科書問題など教育現場が難しい時期でしたが、むしろ困難なところに飛び込んでいくという感じでした。

 特に力を入れたのが学力向上です。(07年の)全国学力テストで山口県の小学生は国語、算数の基礎、応用とも全国平均を下回り、その理由の多くを岩国が作ったわけです。

 県の教育長に大目玉を食らわされました。(43年ぶりの)全国学力テストで岩国市の成績が悪かった2007年です。呼び出されて1時間も説教を受けた。岩国の実情を話そうとすると、3倍くらい怒鳴り返すわけですよ。(県教育長に)言われるまでもなく、何とかしなければいけないと痛感しました。

 私はすぐに全小中学校55校を回り、授業を見ることにしました。教育長自らが学校へ指導に出向くなんてめったにない。でも、課長に任せられるような生ぬるい状況ではなかった。授業を見た後は先生や管理職と意見交換しました。すると小テストをするプリントの費用がないと言う。すぐに予算化しました。

 教科書を形式的にやるだけじゃ駄目。子どもたちの目を見て反応を探り、授業を改革する必要性を説きました。1、2年間で学力テストの成績は県内トップレベルになりました。

 10年6月、教育長を退任した

 子どもたちにとって、学校時代は一番夢がある時代。なのに今、全国でいじめや自殺があり、学校生活を後ろ向きに感じさせることが多い。そんなのはおかしい。古里の学校の楽しさを取り戻してほしい。

 退任あいさつで、校長に「人間力を育てて」と求めました。自分の道を自分で探して生きるたくましさを養ってほしい。その原点は、正しい生活習慣と学力にあると思います。

(2010年12月22日朝刊掲載)

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