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連載・特集

島根原発 遠のく再稼働 新基準案で規制強化

 原子力規制委員会が新たにまとめた原発の新規制基準案により、島根原発(松江市)は今後、2年以上停止が続く見通しとなった。事故時に必要となる設備がない場合には原則、運転が認められないためだ。昨年1月に停止した2号機の再稼働は早くても2015年度以降。より多くの対策が求められる1号機は採算に合わない可能性もあり、再稼働か廃炉か判断を迫られる。(山瀬隆弘、樋口浩二)

■対応策

ベント設備が急務

 「世界のレベルに負けない基準になった」―。原子力規制委が新基準案をまとめた10日、田中俊一委員長は規制の厳しさを何度も強調した。象徴としたのが、事故時に原子炉格納容器の圧力を下げるフィルター付きベント設備。「沸騰水型」と呼ばれる福島第1原発と同じタイプは「即時適用を求めている」と言い切った。

 島根原発は沸騰水型。ベント設備は、緊急時に格納容器が壊れるのを防ぐため中から蒸気を逃がす際に出る放射性物質の量を千分の1以下に抑える。中国電力は、1989年稼働の2号機と建設中の3号機への設置を決め、設計を急ぐ。現時点では完成は15年度内としており、早期再稼働は困難な状況だ。

 中電内には、ベント設置の計画を進めていれば設置完了の前でも稼働が認められるとの見方もあったが、田中委員長はこの考えを遮った形。1号機は、ベントを設けるかどうかも決まっていない。

 中電は前倒しを考え始めた。国内メーカーが海外の最新技術を応用できる可能性が出たためで、「計画よりは早く設置できる」と松井三生副社長電源事業本部長はみる。しかし、どれだけ早められるかは明確でない。

 新基準案は、事故時の指揮命令拠点となる免震重要棟を造ることも義務付けた。中電は14年度内の完成を目指して、今月4日に工事を始めた。津波対策に必要な防波壁もかさ上げ中で、既に完成している3号機に続き、1、2号機も9月末までに終える。

 稼働から40年目を迎えた1号機では、規制委が強めた電源ケーブルの火災対策も求められる。2、3号機は対応できているが、古い1号機は燃えやすいケーブルを使っている。補修で取り換えたのは一部だけ。中電は「延焼防止材を塗っており、難燃性は新ケーブルと同等」と主張するが、認められるかどうかは「現時点では分からない」とみる。燃えにくい素材の電源ケーブルへの全面切り替えが必要となれば、対策費や期間などで新たな経営負担となる。

■運転の是非

1号機採算に議論

 原発が全停止した13年3月期に過去最大の280億円の赤字を見込む中電。経営と電力供給の安定には原発の稼働が欠かせないとの姿勢を崩さず、苅田知英社長は「基準ができればクリアする努力を続ける」と言う。ただ「廃炉は考えていない」とする1号機は、「経営としてどう考えるか議論が起きる」と含みも持たせる。

 新基準を受け、再稼働の断念を求める声も上がる。原発に反対する広島大の安藤忠男名誉教授は「中電は、経済性をいま一度見つめ直すべきだ。多くの対策をしてなお、メリットがあるのか」とコスト面から疑問を投げ掛ける。

 市民団体平和フォーラムしまね(松江市)の杉谷肇代表は規制委の基準が十分でないと批判。「福島の事故で地震が原子炉に与えた影響は十分に考慮されていない。安全は保証されない」とし廃炉を求める。

 島根県の溝口善兵衛知事は4日の記者会見で「国の議論を注視しながら、必要に応じて県としても専門家の意見を聞いていく」と事態を見守る。

◆記者の目◆

地域に必要か考え直す好機

 規制委は新規制基準案を「世界最高の厳しさ」と表現した。早期の再稼働を目指す中電にとってはハードルが上がったことになるが、一方では事業を根っこから見つめ直すチャンスでもある。電気を使う側の市民や企業にとっても同じだ。安全へのコストが大きく高まる中、地域に原発が必要かあらためて考え直したい。

<島根原発の主な新規制基準への対応>

                        1号機           2号機           3号機
                     出力46万キロワット  出力82万キロワット   出力137.3万キロワット
                     1974年3月稼働     89年2月稼働        建設中
フィルター付きベント設備       対応未定        2015年度完成      15年度完成
防波壁のかさ上げ          13年度上期完成    13年度上期完成      完成済み
難燃性電源ケーブルの使用    一部に使用         全面使用          全面使用
免震重要棟              14年度完成       14年度完成        14年度完成

(2013年4月12日朝刊掲載)

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