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連載・特集

揺らぐ非核外交 <上> 海外の視線

声明不参加 広がる失望

「米の傘」頼る他国は賛同

 「なぜ」「Why?」の声が国内外に広がっている。2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けてスイス・ジュネーブで開催中の第2回準備委員会。「核兵器の人道的影響に関する共同声明」に被爆国日本は加わらなかった。米国が差し出す「核の傘」に頼りながら、廃絶を訴える矛盾をあらためて露呈し、「核兵器は絶対悪」と言えない非核外交は発言力を失いつつある。

 共同声明の発表から1週間たった30日。スイス政府は「核兵器の人道的な影響」をテーマにシンポジウムをジュネーブで開いた。

 「核兵器の非人道性に焦点を当てたアプローチは、停滞した核軍縮を前に進める可能性を帯びている」。核兵器の不使用を訴える共同声明の取りまとめを主導したスイスの外務省担当者は、各国政府や非政府組織(NGO)からの参加者約100人に力説した。

 核兵器をめぐる姿勢に矛盾を抱える日本政府はこの場で、世界に発する言葉を持たない。

同盟支障なし

 「わが国と米国の同盟関係に、これで支障が出るとは思わない」。声明に賛同した北欧ノルウェー。外務省軍縮不拡散局のインガ・ニイハーマル局次長は強調する。

 北大西洋条約機構(NATO)の加盟国。日本と同じようにノルウェーも米国の「核の傘」に自国の安全保障を委ねる。それでも、共同声明が訴える核兵器の非人道性をめぐっては論をまたない。「被爆国日本は大きな存在。賛同してほしかった」。ニイハーマル氏は残念がる。

 NATO加盟国では他にもデンマーク、アイスランド、ルクセンブルクの3カ国も賛同した。デンマークのウッファ・バルスレブ大使(軍縮担当)は「日本と同様、デンマークは核兵器保有国と『核兵器のない世界』に向けた手続きを段階的に重ねる従来の手法を支持する。核兵器を絶対的に否定する声明とは決して矛盾しない」と話す。

 「いかなる状況下でも、核兵器が再び使用されないことが人類生存に寄与する」。日本政府がのめなかったのは、声明のこの一節だった。核開発を進める北朝鮮や核保有国の中国と向き合う以上、抑止力として「核の傘」に入らざるを得ない―。外務省の説明だ。

 声明を起草した南アフリカは、こうした日本の考えに手厳しい。「核兵器使用が正当化される場合などあるのだろうか」と、アブドゥル・ミンティ駐ジュネーブ大使。「北朝鮮が相手なら使ってもいいと言いたいのか」

うねりに逆行

 被爆から、ことしで68年。ヒロシマ、ナガサキの惨状は世界に伝わり、核兵器廃絶を掲げる日本の背中を追う国々が増えた。それを示すのが、声明への70を上回る賛同国数だ。なのに「主役」であるはずの被爆国が新たなうねりに背を向け、批判と失望を広げた。

 「日本は誤ったメッセージを発してしまった」。準備委を傍聴した明治学院大の高原孝生教授(国際政治学)にはそう映る。「被爆国の立ち位置を疑われても仕方ない」(ジュネーブ発 田中美千子)

北大西洋条約機構(NATO)
 1949年、旧ソ連の脅威に対抗するために米国、カナダ、西欧10カ国の計12カ国で西側軍事機構として発足した。加盟国が武力攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃とみなし、兵力使用を含む必要な行動を直ちに取ることを定める。現在は28カ国が加盟。本部をベルギーの首都ブリュッセルに置いている。

(2013年5月1日朝刊掲載)

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