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連載・特集

揺らぐ非核外交 <下> 矛盾

「核の傘」頼みの被爆国

非人道性より安保重視

 「核兵器をいかなる場合でも使ってはならない。使えばどんなことになるか分かっている政府は当然、賛同すべきだった」。広島県被団協(金子一士理事長)副理事長の佐久間邦彦さん(68)は「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の賛同国に加わらなかった政府の対応を非難した。

 2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会に合わせ、県原水協は佐久間さんをスイス・ジュネーブに派遣。被爆証言に当たった。4月30日、広島市中区の県被団協事務所での帰国報告会では、出発前の期待が打ち砕かれた悔しさをにじませた。

174ヵ国が懸念

 被爆者と政府は「核兵器は非人道的」との認識では一致する。

 政府が1994年から毎年、国連に提出する核廃絶決議。昨年も「核兵器使用による悲惨な人道的結末への深い懸念」を明記、174カ国が賛成した。被爆地選出の岸田文雄外相(広島1区)も先月26日の衆院外務委員会で「唯一の戦争被爆国として核兵器使用の実態をどの国よりも知っている」と強調した。

 それなのに、声明が「いかなる状況下でも」核兵器の使用を認めないことを理由に、賛同を拒んだ。米国の提供する「核の傘」の下での非核外交という「矛盾」を国際社会に強く印象付けた。

 10年のNPT再検討会議は核兵器の非人道性に触れ、核兵器禁止条約の検討に言及した最終文書を採択した。「非人道性」は核軍縮のプロセスの停滞を打破するキーワードとして被爆者や国際社会で受け入れられた。

 政府はしかし、核兵器禁止条約に後ろ向きだ。政権交代を成し遂げた民主党が掲げた「北東アジアの非核化」も成果を出せなかった。「平和と言っていれば実現できるわけではない。北朝鮮のミサイル問題が現実にある」と政府関係者は言う。

原点回帰訴え

 日本が主導する核兵器を持たない10カ国でつくる「軍縮・不拡散イニシアチブ」(NPDI)も廃絶ではなく「核リスクの低減」を当面の目標に挙げる。外相会合が来年春、広島市で開催される。

 10年の再検討会議で米ニューヨークを訪れ、学校で被爆証言をした広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧智之事務局長(71)は子どもたちが共感してくれた様子を忘れない。「日本は状況次第で核兵器の使用を認めるのか、と問われた時、被爆者はどう答えればいいのか」と頭を抱える。

 広島修道大の大島寛教授(米国研究)は「米国に追従する安全保障政策を変えない限り、日本がいくら核兵器廃絶を言っても国際社会では信用されない」と語る。ヒロシマ、ナガサキを繰り返してはならないという原点に立ち戻るべきだとの指摘だ。真の非核外交への転換を促す役割を、被爆地の訴えは負う。(岡田浩平、藤村潤平)

軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)
 日本、オーストラリア、ドイツ、カナダ、オランダ、トルコ、アラブ首長国連邦、チリ、ポーランド、メキシコの非核兵器保有国10カ国で構成。2010年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で合意した行動計画を着実に実行するため、同年9月に発足した。核軍縮に関する具体的で現実的な提案を目指す。来年4月に広島市で外相会合を開く。

(2013年5月2日朝刊掲載)

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