×

連載・特集

憲法を考える インタビュー <中> 広島修道大 佐渡紀子准教授

自衛隊 位置付け不明瞭

96条堅持で9条改正を

 ―安倍晋三首相は憲法9条の改正が必要との認識を示し、発議要件を緩める96条の改正を目指しています。
 96条を先行改正する考えは、全くもって受け入れられない。「衆参両院とも総員の3分の2以上の賛成」という発議要件を緩めるべきでない。

 国会のハードルを下げた改正案を国民投票に掛けるなんて、国会議員の責任放棄に他ならない。96条を守る前提の上で、私は9条改正の考えを支持する。

 ―戦争放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を定める9条を、なぜ改正すべきなのですか。
 侵略目的の戦争は、無論あってはならない。私がここで指摘するのは、自衛隊の位置付けだ。現実として軍隊の機能を持ち、自国防衛に当たっていながら、条文では根拠が不明瞭となっている。

 時々の政権はこれまで、憲法の条文解釈で自衛隊の活用の幅を広げてきた。こうした「解釈改憲」はもう、するべきではない。いまの自衛隊の在り方を国民が理解し、受け入れているのであれば、明確に憲法で定義するべきだ。

 ―首相が改憲を急ぐ理由に中国の軍備拡張や北朝鮮の核開発への懸念があるようです。
 安全保障をめぐっては、とかく北東アジアに目が向きがちだ。しかし改憲論議では、これから10年の自国防衛ではなく、50年後の日本を考えるべきではないだろうか。

 ―9条に関し、自国と密接な関係の他国が攻撃された場合、共同で対処する集団的自衛権をどう考えますか。
 政府は憲法解釈で、集団的自衛権の行使を認めていない。今後も行使すべきではないと思う。

 集団的自衛権の行使を認めれば、当然ながら武力行使を伴う多国籍軍への参加も選択肢に入ってくる。国民がその時、国際問題を解決するために海外で武力を使うことを認めるか認めないか。大きく意見が割れるだろう。

 ―海外での自衛隊の武器使用は、今も常に議論を生みます。
 「自衛のため」で「戦力ではない」と解釈されているため、自衛隊が国際社会の要請で活動する場合も、自衛の範囲か、他国への武力行使に当たらないか、という賛否に終始してしまう。自衛隊の存在を明確にした上で国際社会の課題にどう関わるか、実質的な議論が不可欠だ。

 ―平和主義の精神を、9条と安全保障の今後の議論にどう生かしますか。
 被爆地広島、長崎をはじめ、多くの国民が戦争に苦しめられた経験から、日本は平和主義を大切にしてきた。そこで思考停止せず、安全保障上の課題について、どのような行動をとるのが日本として望ましいか、国民が当事者意識を持って議論していくべきだ。(岡田浩平)

さど・のりこ
 72年、広島市東区生まれ。大阪大大学院国際公共政策研究科で博士号取得。同大助手、日本国際問題研究所研究員などを経て、05年から現職。専門は平和学と国際安全保障論。40歳。

憲法9条と集団的自衛権
 憲法9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と明記。政府は、国連憲章51条が記す個別的自衛権に基づき「自衛のための必要最小限の武力を行使することは認められる」としている。

 同じく国連憲章51条により認められるのが集団的自衛権。同盟国などが武力攻撃を受けた場合、自国が直接攻撃されていなくても実力で阻止する権利だ。政府は、国際法上有しているが、憲法9条で許容される自衛権の「必要最小限の範囲」を超えるとして行使できないとの解釈を続けている。

(2013年5月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ