×

連載・特集

描こう 核なき未来 4月に広島でNPDI外相会合 米ではNPT再検討会議準備委員会

 人類大量殺りく兵器である核兵器は、推定1万7265個が存在する。昨年、日本政府は、核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明に初めて賛同したが、核超大国である米国との軍事同盟を強化する。中国は核保有数を増やし、北朝鮮は核実験を強行するなど、東アジアは新たな冷戦関係にある。今年4月、広島では軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合が、ニューヨークでは核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会が開かれる。政府のみならず被爆地や市民にも、「核なき世界」に向けての構想力と行動が問われている。

被爆地から

壊滅的結末 議論の起点

国境超えた連携 正念場

 ささいな核軍縮義務の履行を自画自賛するだけの米国やロシアなど核保有五大国。いら立つ非保有国。「NPT頼みでは前に進まない」。前回2010年の再検討会議をニューヨークで取材する中、国際NGO(非政府組織)関係者らは批判を繰り返した。

 そんな中で採択された最終文書の一文が注目され、非保有国と市民社会が主導する今日の核軍縮機運につながっている。

 ともすれば軍事面から語られがちな核兵器を、最終文書は「使用がもたらす壊滅的な人道上の結末」から考える。国際人道法と結び付けた古くて新しいアプローチである。禁止条約への入り口と捉える国もある。被爆地の願いと軌を一にするものだろう。

 日本政府はどうか。昨年、国連での共同声明に4回目にして初めて賛同した。広島・長崎の被爆者団体や平和団体、両市が主導する平和首長会議の存在感があったからこそ山は動いたといえる。

 だが米国の核兵器に依存する以上、「非人道性」は認めても違法化に反対する姿勢は崩さない。被爆地が政府と対話し、安全保障政策の転換をどう迫っていくのか。核軍縮に関心を寄せる国際社会は冷静に見ている。

 最近の潮流を象徴するのが、昨年3月にノルウェー外務省が主催し約130カ国の政府やNGOがオスロに集まった国際会議である。こちらは核兵器が使われた場合の被害想定、という面から「非人道性」を検証した。

 広島・長崎の体験は、生身の人間に起き、今に続く被害の甚大さである。海外発の訴えと重なり合いながら、廃絶への機運をどこまで高めていけるかが問われる。

 少なくとも、せっかくのうねりを途切れさせてはなるまい。オスロに続く会議は今年2月、メキシコである。直接、間接にできるだけの声を届けたい。

 NPDIは、米の「核の傘」に頼る日本とオーストラリアが主導し、メキシコやチリなど国連での共同声明を推した国々が名を連ねる。核軍縮のユニークな多国間グループといえる。メキシコでの会議や、広島で4月に開かれるNPDI外相会合、その直後のNPT再検討会議準備委員会の議論は、次回15年の再検討会議の行方にも影響するはずだ。

 「非人道性」をめぐる議論の、その先を常に見据えたい。被爆者の体験を受け止めながら国内外の官民「有志」と手を携えていく。核を「持てる国」は反発するだろうが、NPT体制をほごにするものでは決してない。被爆70年に向けて正念場の2014年である。(論説委員・金崎由美)


軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)
 日本とオーストラリアが主導して2010年発足。核拡散防止条約(NPT)体制の維持や、強化への具体策を提言している。参加国はカナダ、ドイツ、メキシコなど当初の10カ国から13年、フィリピンとナイジェリアが加わり12カ国で構成する。これまで7回の外相会合を開催。今年は日本で初めて4月12日、広島市で開く。参加国の外相と被爆者との意見交換会も予定されている。

核拡散防止条約(NPT)
 1970年発効・95年無期限延長し、190カ国が加盟。米国、ロシア、英国、フランス、中国の核兵器保有を認める代わりに核軍縮の義務を課す。76年批准の日本などには原子力の「平和利用」を認める。五大国の核独占や、核拡散の潜在的リスクが指摘され、核兵器を事実上持つインド、パキスタン、イスラエルは未加盟。北朝鮮は2003年に脱退。運用状況を点検する5年ごとの再検討会議の準備委員会が4月28日からニューヨークで始まる。

(2014年1月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ