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連載・特集

核軍縮議論は日本が主導 岸田外相インタビュー

 発足から1年が過ぎた第2次安倍内閣で外相として活躍する岸田文雄氏(広島1区)。2015年に迎える被爆70年という節目を前に、広島市を地盤とする外相は、核兵器廃絶という被爆地の願いをどう前進させるのか。一方で、歴史認識や領土をめぐり、日中、日韓の緊張は高まったままだ。安倍政権は14年以降、集団的自衛権行使容認に向けた議論も本格化させる構えで、日本の外交・安全保障政策は大きな転換点を迎える。岸田氏は、中国新聞社の岡谷義則社長のインタビューに答え、核廃絶への思いや山積する課題への展望を語った。(城戸収、藤村潤平)

廃絶に向けて

共同声明 大きな一歩

 岡谷 あけましておめでとうございます。外相に就任して1年が過ぎましたが、振り返っていかがですか。

 岸田氏 特に核軍縮・不拡散の問題に力を入れてきました。例えば「ユース非核特使」制度をつくりました。若い世代も核兵器の非人道性、悲惨さを未来に語り継いでいかねばならないと思うからです。

 13年9月に米ニューヨークの国連本部であった核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合での演説では、私自身の核軍縮に向けた思いを申し上げた。さまざまな機会を捉えて発信してきました。

 岡谷 その国連を舞台に13年10月、核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明が発表されました。それまで賛同を見送っていた日本が初めて声明に名を連ねました。この判断には岸田外相に強い思いがあったようですね。

 岸田氏 日本は唯一の戦争被爆国として核軍縮の議論を主導する責任を負っています。しかし、わが国を取り巻く安全保障環境は大変厳しい。日本の思いと現実を調整し、共同声明に参加すべきだと省内に指示しました。

 私もニュージーランドなどの関係国の外相に会って協力を要請し、わが国の思いが盛り込まれた声明へと修文できた。共同声明への参加は、日本が核軍縮に貢献する歩みの中で大きな一歩ではあるが、大きな目的はまだまだ先にあります。

 岡谷 4月には広島市で「軍縮・不拡散イニシアチブ」(NPDI)外相会合が開かれます。各国外相にどんな働き掛けをしますか。

 岸田氏 被爆体験を聞き、原爆資料館を見学して被爆の実態に触れてもらうことがまず重要。ユース非核特使の声にも耳を傾けてもらいたい。その上で議論し、被爆地広島からしっかりとしたメッセージを発信する。15年春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議へとつなげ、核兵器のない世界へと前進させたい。

 岡谷 一方で政府は、NPT未加盟国のインドとの原子力協定の締結に向けた交渉を加速させています。被爆地にも批判があり、「3・11」を経験した国民には原子力の平和利用への不安もあります。

 岸田氏 協定を結ぶことで核不拡散体制を損なってはならない。インドは近年、核実験モラトリアム(一時停止)を維持するなど不拡散体制に前向き。協定という枠組みを通じて実質的にNPT体制に取り込んでいく。インドの対応を確認しながら協議を進めます。

オバマ氏の広島訪問

大使と意思疎通図る

 岡谷 キャロライン・ケネディ駐日米大使が着任されました。1978年の初来日時に広島を訪問し、被爆地に強い思いを寄せられています。

 岸田氏 近いうちに広島を訪れていただけると期待しています。

 着任直後、ケネディ氏の誕生日に大使夫妻と私たち夫妻とで誕生パーティーを開かせていただきました。広島訪問時の話や、ケネディ氏がファンである米大リーグ、ボストン・レッドソックスと、広島東洋カープのチームカラーが同じ「赤」だなどの話題で盛り上がりました。

 お土産は広島県熊野町産の化粧筆。お礼の手紙に「メーキャップがうまくなったと友達に褒められる」と書かれてあり、大変喜ばれた様子でした。広島に大変強い思いをお持ちだと確信しています。

 岡谷 ケネディ氏をはじめとした世界の要人、特にオバマ米大統領の被爆地訪問を願う声が広島で大きくなっているように感じます。オバマ氏と緊密な関係であるケネディ氏に働き掛ける考えは。

 岸田氏 「核兵器のない世界」を掲げるオバマ氏が広島を訪れ、被爆の実態に直接触れることは大変意義あることと認識しています。広島への思いを強く持つケネディ氏が就任されたこの時期に、広島訪問を考えてもらう可能性はあるのではないか。ケネディ氏と意思疎通を図り、話してみたいと思っています。現段階では何も決まっていませんが。

 岡谷 広島、長崎は深い痛手を負いながらも、屈することなくよみがえった。戦争だけでなく貧困や災害などで平和を脅かされる人が今、世界にたくさんいます。そうした人々や世界の要人に広島は復興した都市であり、希望の都市であることを伝えていただきたい。被爆地出身の外相として期待しています。

 岸田氏 そうですね。平和を広く捉えることは大変重要な視点だと思います。そうした思いで広島を発信するため努力し、汗をかきたい。

外交

緊張の緩和に対話が不可欠

 岡谷 安倍政権の大きな課題の一つ、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題は、沖縄の負担軽減の観点からどのように進めていく考えですか。

 岸田氏 市街地の中にある普天間飛行場の現状を考えると、普天間の固定化はあってはならない。配備されている垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ訓練の県外移転、米海兵隊岩国基地(岩国市)へのKC130空中給油機の移転などを着実に進めたい。

 岡谷 オスプレイの安全性や岩国基地への空中給油機移転には不安の声も強いです。

 岸田氏 さまざまな声や不安があることは承知しています。こうした政策の意義、安全性を丁寧に説明していく努力を続けたい。

 岡谷 日中、日韓関係は緊張が続いています。東アジアの安全、平和の観点からも今のままでいいわけはない。どういう手順で局面を打開する考えですか。

 岸田氏 中国、韓国はわが国にとって大切な隣国。残念ながら日中間、日韓間には難しい問題が存在しています。しかし、こうした問題があるからこそトップ同士の対話が大切です。国際社会に対し、日本が現状についてどう考え、どう対応しているのか説明することも大事。日本の対話のドアはいつもオープンであることを引き続き訴えていきたい。

国会運営

集団的自衛権 丁寧に説明

 岡谷 先の臨時国会で特定秘密保護法が成立しました。アベノミクスへの期待はその通りで、1年前とは日本経済の風景は変わりつつありますが、特定秘密保護法の審議に見られる強引な国会運営は国民の支持を得られないのではないですか。

 岸田氏 審議のありように言及することは政府の一員として控えたい。ただ法律の意味、中身、影響を国民にしっかり理解していただくよう、政府は引き続き説明に努力する必要があると感じています。

 岡谷 1月下旬に開会する通常国会では、集団的自衛権の行使容認に向けた議論が熱を帯びてくると思います。自民党内で「軽武装・経済重視」の保守本流路線を進めてきた派閥、宏池会の責任者として、集団的自衛権の問題をどう捉えていますか。

 岸田氏 「ハト派」とか、「リベラル派」という評価を受けてきた宏池会の歴史は誇りに思っています。しかし、安全保障や国民の生命・財産を守ることは、保守であれリベラルであれ、ハトであれタカであれ、立場を超えてやるべきことはやらないといけない。歴史認識や近隣諸国との関係といった部分で宏池会がどんな役割を果たしてきたのかを振り返りながら、われわれの考え方を訴えていきたい。  岡谷 積極的に平和を守るためには、それ相応の覚悟がいると。

 岸田氏 集団的自衛権をめぐる議論はまだ続いています。ただ、一国だけで国民の安全を守れるほど現実は甘くない。テロも含めて考えれば、国際社会全体が安定してこそ国民の安全は守れる。こういう発想が今、大事ではないかと感じています。

 まずは国民に幅広く理解されることが重要です。その際に丁寧に議論を進めることが大切。集団的自衛権をめぐる問題で、宏池会としては党内の丁寧な議論に資する役割を果たしていきたい。

 きしだ・ふみお
 1957年生まれ。銀行員、父の岸田文武衆院議員秘書を経て、93年の衆院選で初当選。当選7回。文部科学副大臣、沖縄北方・消費者行政担当相、自民党国対委員長を歴任。2012年12月から現職。早稲田大法学部卒。

核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明
 2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が核兵器使用による壊滅的被害に懸念を表明したのを受け、核兵器の非人道性に着目した議論が活発化している。ニュージーランドなど16カ国は12年のNPT再検討会議第1回準備委員会の際、核兵器の非人道的側面を強調する共同声明を発表。その後も2度、同趣旨の声明を出した。日本は「米国の核戦力を含む抑止力に依存する安全保障政策と合致しない」として参加を避けていたが、13年10月の声明に初めて賛同した。

日印原子力協定交渉
 原子力平和利用の協力関係樹立を目指し、2010年6月に開始。協定が成立すれば日本からインドへの原発関連資材、機材の輸出が可能となるが、11年3月の東日本大震災を機に事実上、交渉が中断した。核拡散防止条約(NPT)未加盟国のインドに対する原子力物資・技術の移転は原子力供給国グループ(NSG)で禁止されていたが、08年のルール改正で解禁。インドは米国やフランス、ロシアなどと既に原子力協定を締結している。

(2014年1月1日朝刊掲載)

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