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山口知事選の課題 <上> 上関原発 前進・撤回 問われる判断

争点の突出みられず

山本繁太郎前知事の辞職に伴う山口県知事選は23日、投開票される。新しいリーダーが決まる前に、県政の課題を追った。

 中国電力が原子力発電所建設を計画する山口県上関町の予定地。福島第1原発の事故後、県と上関町の要請を受けた中電が、準備工事を中断して来月で丸3年を迎える。本来なら、眼前の海面のうち約14万平方メートルは既に埋め立てられているはずだった。現場はいま、作業員の姿はなく、気象観測の探知音だけが響く。(井上龍太郎)

 山本前知事が、公有水面埋め立て免許延長申請の許可不許可の判断を1年程度先送りすると表明したのは昨年3月。その5カ月前には「不許可にする」と明言していただけに、反原発団体などからは「変節した」と批判を浴びた。

 民主党から自民党への政権交代。前知事に近かった県議は「自民党政権は原発活用に前向き。地元への配慮と国との歩調もある。ぎりぎりの道が先送りだったのでは」と前知事の立場を推し量る。だが、その前知事は任期途中で辞職。判断は後任に委ねられた。

 上関原発は1982年に構想が浮上し、2001年に国の電源開発基本計画に組み入れられた。県は中電の株式の10%弱を持つ筆頭株主。知事は建設に伴う免許権者でもあり、上関原発計画を左右する重要な立ち位置にある。

 4期16年務めた二井関成元知事は、福島原発事故後の11年6月、自ら交付した埋め立て免許の失効方針を表明した。国のエネルギー政策への協力姿勢を貫きながらも、中電の株主総会には議決権行使書を白紙提出するなど、多様な立場のはざまで揺れ続けた。

 計画浮上から30年が過ぎた地元上関町。反対派の上関原発を建てさせない祝島島民の会の山戸孝事務局次長(36)は「県政のかじ取り役として計画撤回させるべきだ」。推進派の上関町商工事業協同組合、柏田真一代表理事(38)は「原発政策は国が決める課題。それでも計画推進を政府に迫る統率力を求めたい」とする。

 今回の選挙戦に立った無所属で元総務省官僚の村岡嗣政氏(41)=自民、公明推薦=は原発問題への言及を避ける。一方で、無所属で元衆院議員の高邑勉氏(39)=生活推薦、共産党公認で元周南市議の藤井直子氏(61)は「上関原発反対」を訴えて対決色を強める。

 だが、原発撤回を訴えた環境NPO法人代表の飯田哲也氏が、当選した山本前知事に迫った前回12年7月の知事選とは異なり、今回は原発問題が前面に出た戦いとはなっていない。原発だけが選択肢とはならない地域の実情も垣間見える。

 地元出身の安倍晋三首相(山口4区)は上関原発を「現在のところ全く想定していない」と表現した。計画の前進か白紙撤回か―。国策と地元の思いを見据えた判断が新しい知事には問われる。

(2014年2月13日朝刊掲載)

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