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連載・特集

緑地帯 「アトム書房」を歩く 山下陽光 <2>

 「アトム書房」に注目する前にも、広島には何度か来たことがあった。2009年に広島市現代美術館であった「一人快芸術」展に出品を頼まれた。個人的な楽しみに発した表現を集めた展示。何をやるかなと考えて、最初に気になったのは原爆ドームだった。

 原爆ドームを設計した建築家はチェコ人だというのが興味深かった。しかし広島に来てみると、コンビニなどのチェーン店があまりに多く、東京みたいで驚いたので、あえてそれを全肯定する「チェーン店は最高」というタイトルの展示にした(一応「チェ」が共通する)。

 その後、同じ美術館で写真家・編集者の都築響一さんが構成した所蔵品展を見て、広島のダダイスト山路商がとても気になった。山路は戦前から戦中期に詩人、画家として活動。比治山の下で画材屋を営み、そこには広島の若き表現者がたむろしていたという。

 当時、東京・高円寺の辺りで仲間とやっていた「素人の乱」という店みたいだ、と勝手に親近感を抱いた。素人の乱は、ラジオで情報発信もする、リサイクルショップや古着屋や飲み屋やゲストハウスの緩いつながりだ。

 11年、東日本大震災と福島の原発事故が起きた。長崎で育った幼い頃に聞かされた、あの原爆と同じ放射能が漏れているのかと思うと、恐ろしかった。素人の乱をやっている仲間の友人が広島にいて、避難するんだったらいつでも来ていいよと連絡があり、恋人や友人と一路、広島に向かった。この仮住まいを拠点に、アトム書房調査隊は発足する。(アーティスト=長崎県諫早市)

(2014年3月5日朝刊掲載)

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