×

連載・特集

緑地帯 「アトム書房」を歩く 山下陽光 <3>

 アトム書房調査隊は、あだ名で申し訳ないが、大将、ダダオ、ステップナーと筆者のズッコケた男4人組で結成された。筆者以外の3人は広島育ちで広島に住んでいる。

 ネットで調べると、海外のサイトで店の画像や当時の新聞記事が出てくる。「原爆1号」と呼ばれた語り部の吉川清氏や、「原爆市長」の浜井信三氏たちと一緒に、焼け野原の広島の光景として。

 原爆資料館で情報資料室担当の菊楽忍さんを訪ねると、写真家の木村伊兵衛氏や菊池俊吉氏が撮ったアトム書房の写真を見せてくれた。ダメでもともと、と思っていたので驚いた。オーストラリア軍の従軍記者だったステファン・ケレン氏による店主へのインタビューが載った本もあった。

 そこで店主の名前が分かった。杉本豊、当時24歳。

 原爆投下後の広島に戻ってきて、先祖伝来の土地で古書店を始めたがさっぱりもうからず、被爆で溶けた瓶をお土産として外国人に売っていた。とんでもなく不謹慎に筋が通っていると思った。

 原爆でめちゃくちゃに破壊され、放射能まみれになったがれきを、金払って持って帰れ、と。反戦反核の意識が高いのかと思ったら、インタビューの最後で「今一番の不安はこの商売のアイデアを誰かにコピーされることだ」と答えていて、最高だと思った。

 筆者は長崎で平和教育を受けた。学校で教わった、人間の鏡みたいな生き方とは違う、生き抜いてやるという生々しさがアトム書房にはあった。今、必要なのはこれだと思った。(アーティスト=長崎県諫早市)

(2014年3月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ