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連載・特集

緑地帯 「アトム書房」を歩く 山下陽光 <8>

 筆者以外のアトム書房調査隊員、ダダオ、大将、ステップナーは広島に住んでいる。彼らと周辺の人脈が、アトム書房と周辺の人脈に重なって思えて仕方がない。

 23日まで福山市鞆町、鞆の津ミュージアムで開いているアトム書房の展覧会に、広島市猿楽町(現中区大手町1丁目)にあった山本洋家具店が作った家具を展示している。猿楽町にあった店の名前をくまなくネットで検索するうちに、古道具店で売っているのを見つけて買った。

 店は原爆で一瞬にしてなくなったけれど、展示した家具は市外にあったのか、無傷だった。小さな観音開きの棚。中にアトム書房の写真をはめ込んで飾った。

 戦後、山本家具店の跡にアトム書房は建つ。原爆が落とされる前と後の空間を重ね、今につながる表現にできた気がしている。

 調査で見つけた雑誌(1985年10月13日号「毎日グラフ」)の記事で、アトム書房店主の杉本豊氏が、東京都杉並区に住んでいたことが分かった。証券会社に就職し、広島を離れていた。

 10年近く前に亡くなっていたが、自宅にご遺族をお訪ねした。これまでの経緯をお話しすると、「なんでそんなことまで知ってるの」とびっくりされた。仏壇に線香をあげさせてもらった。

 アトム書房は何度も「復活」している。この雑誌が発掘した時もそうだし、今回の展覧会や、この連載もそうだ。アトム書房を記憶しておられる方が現れるのを切に願っている。アトム書房は生きている。(アーティスト=長崎県諫早市)=おわり

(2014年3月13日朝刊掲載)

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