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中電 原発の行方 福島事故から3年 <下> 上関 宙浮く計画に戸惑い深く

 「上関原発計画は保留状態が続き、原子力財源の確保は先行きが不透明」。山口県上関町議会の定例会初日の10日。柏原重海町長は2014年度当初予算案の説明に危機感を込めた。

 原発交付金は一般会計で6700万円。12年度は過去最高の12億9千万円だったが、2年続けて1億円を下回る見通しだ。予算規模40億円前後の町。原発交付金を積み立てた施設整備基金は14年度、観光客誘致を目指すふるさと市場など大型ハード事業で残る8億700万円を使い果たす。

新増設は不透明

 今月中の閣議決定を目指すエネルギー基本計画の政府案は、再稼働による原発活用方針を鮮明にする一方、新増設の可否は明確にしていない。福島第1原発事故の直後、中国電力は上関原発の準備工事を中断。その上関原発を含む新増設について安倍晋三首相は年初、「現在のところ全く想定していない」と述べた。

 2月に行われた上関町議選(定数10)。原発推進の立場を取る立候補者の大半は、原発財源を必要としない振興策に訴えの軸足を置き、選挙戦を展開した。

 「原発を語る時期ではなかった」と町議の一人。推進派は8議席を得たが、投票率86・03%は過去最低だった。推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(55)は「建設の見通しが立たない。停滞感が強い」とこぼす。

 反対派も事態の膠着(こうちゃく)に揺さぶられている。同町祝島の県漁協祝島支店は昨年2月の組合員集会で、原発計画に伴う漁業補償金約10億8千万円の受け取りを賛成多数で決めた。運動の柱として長年拒否し続けてきたが、結束が乱れた。

 「年を重ね、魚価も低迷している。組合員の3割は年50万円も稼げていない」と支店の恵比須利宏運営委員長(70)。原発には反対でも、「原発はできない」との考えから補償金の受け取りに傾く漁業者が増えているという。配分案を決める今月初めの集会は、住民たちの抗議で中止された。

 反対派は8日、上関原発の白紙撤回を党派や信条を超えて訴える集会を山口市で開催。約7千人(主催者発表)が集まった。参加者は、山本繁太郎前知事が判断を先送りした公有水面埋め立て免許延長を不許可にするよう、村岡嗣政知事に求める宣言を採択した。

知事判断に注目

 中電は4月を期限に、県に補足説明の回答を提出する。村岡知事は「エネルギー政策は国策。国が責任を持って判断するもの」と述べるにとどまる。福島県葛尾村から避難してきた山口県避難移住者の会の浅野容子代表(61)=山口県阿武町=は集会に参加し、「私たちは原発がない山口県に安心して避難できた。その意義と向き合い、判断をしてほしい」と言う。

 宙に浮く計画に、戸惑いを深める地元。その中で、村岡知事の判断が注目される。(井上龍太郎)

(2014年3月13日朝刊掲載)

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