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被爆地で非核外交 11・12日 広島でNPDI外相会合 非人道性 焦点に議論

 核兵器を持たない12カ国でつくる軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)の外相会合が4月11、12の両日、広島市で開かれる。日本では初開催。核兵器の非人道性に焦点を当てて非合法化を急ぐ国と、核の力に安全保障を頼る国で廃絶への思惑が異なる中、被爆地を舞台にした非核外交への注目度は高い。「核兵器のない世界」に向けた政治的意思の発信が強く求められる。(岡田浩平、金崎由美)

 12カ国は、米国と「核同盟」を結ぶ北大西洋条約機構(NATO)の加盟国から、核兵器禁止条約の早期実現を求める非同盟諸国(NAM)加盟国まで幅広い。

 NPDIは2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の合意を着実に進めようと、民主党政権下の同年9月に発足した。外務省は「核軍縮、不拡散へ現実的、実践的な提案を打ち出し核リスクの低い世界を目指すグループ」と説明する。毎年2回、外相会合を開催。核兵器保有国に共通の軍縮報告フォームを提案し、NPT準備委員会にも、議論のたたき台として核兵器の役割低減などに関する文書を提出してきた。

 ただ、核をめぐる世界情勢の縮図のようなメンバー構成は、具体策を決めればイニシアチブを発揮できるものの、その合意事項の内容がありきたりとなるきらいがある。広島会合でも論点となる、核兵器の非人道性をめぐる議論に特に色濃く表れている。

 例えばNPT準備委や国連総会で、有志国からこれまで4回提案された「核兵器の非人道性に関する共同声明」。NAMのフィリピンなどは署名したが、NATOの5カ国はしていない。ドイツなどに米軍の核爆弾が前方配備されており「いかなる状況下でも」核兵器の不使用を訴える声明とは相いれない現状にあるからだ。

 NPDIを主導する日本とオーストラリアは米国の「核の傘」に依存している。日本も3回目まで署名を見送った。被爆者たちが批判し続け、昨年10月の国連総会第1委員会(軍縮)で初めて賛同に回った。一方、オーストラリアは声明が「核兵器禁止条約の交渉開始を視野にしている」などと警戒。同じ総会に、核抑止力の維持を前提にした同じ表題の声明を出した。日本はこれにも賛同した。

 毎年の総会で採決する核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議案も同様の傾向だ。日本は棄権を続け、核の傘の下で核兵器廃絶を訴えるジレンマを抱える。

 今回の広島会合で、外相たちは原爆資料館(中区)を見学し、被爆者の証言を聴いて議論に臨む。議長は衆院広島1区選出の岸田文雄外相。核超大国の米国のローズ・ガテマラー国務次官と、NAMの調整役である、インドネシアのマルティ・ナタレガワ外相が参加する。

 「核保有国と非核保有国の溝を埋め、手を取り合って核兵器のない世界へ歩みたい」と外務省。核兵器の非人道性を、国際社会を結束させる「触媒」にできるか。被爆国の責務は大きい。

<NPDI広島外相会合の予定>

【4月11日】
○核軍縮シンポジウム(中区の広島国際会議場)
○各国外相と被爆者、市民との意見交換会(南区のグランドプリンスホテル広島)
○歓迎レセプション(同)※
【12日】
○原爆慰霊碑への献花、原爆資料館の見学(中区の平和記念公園)
○被爆者の体験証言(広島国際会議場)
○メーン会合(グランドプリンスホテル広島)
○ワーキングランチ(同)※
○共同記者会見(同)
※参加12カ国以外に、米国などから3人のゲストが参加予定

非合法化に言及を 平和研の水本副所長

 広島市立大広島平和研究所の水本和実副所長(核軍縮)に、NPDI外相会合への期待を聞いた。(岡田浩平)

 原爆資料館(中区)を見学し、被爆者の体験を直接聞けば、市民や子、孫、地域社会が核によりどれだけ破壊されるか、外相一人一人が実感をもって知ることになる。「被爆地で核の危険性について認識を新たにした。緊急を要する問題だ」とのメッセージを世界に発信してほしい。

 具体的な課題として、まず米国とロシアに対して核軍縮を責任をもって進めるよう求めるべきだ。緊張が続くウクライナは、旧ソ連崩壊で残った核兵器を、経済支援や安全保障と引き換えに放棄した。ロシアのクリミア編入で「核兵器を返すべきではなかった」という議論が湧きかねない。

 核兵器の非人道性の訴えのゴールは、核兵器の非合法化だ。それを目指す動きが国際社会にあり、核兵器禁止条約という目標が視野にあると、NPDIで言及すべきだ。

 安全保障を核に頼る核兵器保有国は非合法化をNPDIにも言わせたくないだろう。意をくんで、日本が米国の番頭になってはいけない。今すぐ非合法化するのは難しいかもしれないが、核に頼らなくていい安全保障環境が実現すれば可能だ。「核の傘」をたたむことも軍縮の目標。米国の核の傘の下にいるから非合法化は駄目だという論理は成り立たない。

 昨年10月の国連総会第1委員会で日本は、核兵器の非人道性と不使用を訴える125カ国の共同声明と、核の傘の下で現実的な軍縮を目指すオーストラリアの共同声明に賛同した。NPDIはその両方を促進すべきだ。さまざまなうねりを廃絶へ向けて束ねてこそ、本当の意味での「イニシアチブ」になる。

みずもと・かずみ
 57年広島市中区生まれ。東京大法学部卒。米タフツ大フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。朝日新聞ロサンゼルス支局長などを経て98年に広島市立大広島平和研究所准教授。10年4月に教授。同年10月から現職。

(2014年3月31日朝刊掲載)

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