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直筆の英訳見つかる 原爆慰霊碑 碑文考案の雑賀教授

■記者 小林可奈

 平和記念公園(広島市中区)の原爆慰霊碑の碑文を考案した雑賀(さいか)忠義元広島大教授(1894~1961年)の碑文と英訳を併記した書計4作が、西区の個人宅で見つかった。英訳は2種類あり、市公文書館は「教授の英訳に対する強い思い入れがうかがえる貴重な資料」と評価している。

 「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」。雑賀教授が全人類の祈りと誓いを凝縮した21文字が、和紙1枚と色紙3枚に慰霊碑と同じ3行の横書きで書かれ、下に英訳が添えられている。和紙には公式訳とは異なる英訳が記されていた。いずれも大きさは縦27センチ、横24センチ。

 医療法人社団更生会理事長の佐藤恒男さん(76)が4月末、自宅のたんすを整理した際に見つけた。1989年に亡くなった母ふみさんが、親交のあった雑賀教授から贈られた。50年代前半とみられる。

 和紙の英訳は、「過ちは繰返しませぬから」の部分を「For to repeat the fault we shall cease」と表現する。市が碑文を発表した1952年7月ごろに使われていた。

 英文学が専門の雑賀教授は、発表後も米国の大学関係者から意見を聞くなどして英訳を練り続けた。色紙には自然な言い回しになった公式訳の「For we shall not repeat the evil」が記されている。

 1952年11月には「碑文論争」が巻き起こった。慰霊碑前で碑文の説明を通訳から聞いたインドの国際法学者パール博士が「『過ちを―』の主語は日本人を指している」と疑問を呈したことが発端となった。

 これに対し、雑賀教授は「世界市民であるわれわれが霊前に誓うものだ」と反論。抗議文を送り、既に完成していた公式訳を添えた。それほど、自ら考え抜いた英訳にも誇りを持っていた。

 市公文書館の要請を受けて、佐藤さんは雑賀教授の書を寄贈した。高野和彦館長は「教授が直筆した初期の英訳は見たことがない。大切に保管し、早い時期に公開したい」と話している。

(2010年5月24日朝刊掲載)

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