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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第1部 おびえる大地 <2> 20ミリシーベルト基準

■記者 山本洋子

避難か被曝か 判断困難

 福島県の保護者たち約350人が2日、参院議員会館(東京)の講堂に詰め掛けた。「汚染された土を一日も早く撤去してほしい」。校庭の土を文部科学省などの官僚の前に置き、迫った。

 福島第1原発事故による放射性物質が降った校庭。子どもの年間被曝(ひばく)量が20ミリシーベルトを超さないよう、文科省は利用制限をかけた。しかしこの基準の是非には、医師や省庁の間でも意見が割れる。

 象徴的だったのが、この2日の集会だった。「断じて20ミリシーベルトを認めておりません」。横に座った原子力安全委員会の担当者が言い放った。文科省担当者の顔がゆがんだ。

 「いったい誰が基準を決めたの」。会場の福島県川俣町の佐藤幸子さん(52)はがくぜんとした。「福島県民は、自分の判断で身を守れと言われたのも同じ」。憤りを抑えられなかった。

 この20ミリシーベルト基準は「計画的避難区域」などのエリア設定でも用いられた。国際放射線防護委員会(ICRP)が事故収束後の基準値として勧告した1~20ミリシーベルトが根拠。そしてそのICRPの数値は広島と長崎の被爆者調査のデータが基になっている。

科学的根拠なく

 ただ一度に大量の放射線を浴びた原爆と、福島のように低線量を長期間に浴びる被曝の違いは明らかになってはいない。また内部被曝についても文科省は「全体(年間20ミリシーベルト)の2%程度で軽微」と説明。保護者からの質問に「汚染食品による危険などは想定していない」と明かした。

 「20ミリシーベルトという有害レベルの被曝を許容するのは許し難い」。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)は4月29日付で高木義明文科相に宛てた書簡で「リスクのない線量は存在しない」と、対応を批判。日本医師会も5月12日付で「20ミリシーベルトの科学的根拠が不明確」と疑問を呈している。

 政府内の見解も一致していない。

菅降ろしの見方

 「受け入れがたい」として内閣官房参与だった小佐古敏荘・東京大大学院教授は抗議の辞任をした。「放射線安全学の第一人者。やはり危ない」―。地元では不安が増大した。

 大学院時代の恩師、小佐古氏を参与に推した民主党の空本誠喜衆院議員(広島4区)も12日、別の議員とともに20ミリシーベルト見直しを求める要請書を首相秘書官に提出した。しかし政界には、一連の動きを「小沢派の菅降ろし」とみる向きもある。

 広島大原爆放射線医科学研究所の細井義夫教授は「内部被曝も踏まえ、子どもは絶対に守らなければならない」と語る。避難を取るか、被曝を取るか―。住民の判断となる基準さえ国は明確に説明できていない。

(2011年5月17日朝刊掲載)

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