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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第3部 被爆地の変化 <5> これから

■記者 下久保聖司、河野揚

8・6の蓄積 再び光

 広島市長が毎年8月6日の平和記念式典で読む平和宣言。4月に就任した松井一実市長は、被爆者から募った体験談や平和への思いを宣言に盛り込む考えを示している。

 福島第1原発事故から受けた衝撃に、三原市幸崎町の岡田黎子さん(81)も筆をとった。66年前、被爆者救護に出向いた広島で残留放射線を浴びた。「原爆も原発も、人間を破壊するのは同じ」。応募した文章の一節をそらんじた。

不気味さ忘れず

 元美術教師。これまでは反核・平和の祈りを絵に込めた。忘れもしないのは、目立った外傷もないのに息を引き取っていった被爆者。放射線の不気味さをまざまざと見せつけられた。「福島でも、多くの人が放射線におびえている。広島はメッセージを発すべきだ」。松井市長がフクシマをどう宣言に盛り込むのか、岡田さんは注目する。

 3月下旬に開かれた原爆資料館(広島市中区)の展示検討会議。委員から「放射線被曝(ひばく)資料館の新設を」との意見が出た。発言の主は石丸紀興・広島国際大教授(建築学)。「非常に重要な時期。(原発事故の)問題が起きた時にどんなことが起こるか、国民は心構えをするべきだ」と訴えた。

 中国電力が山口県上関町で進めてきた上関原発建設計画もクローズアップされている。周辺の市町議会の多くは意見書で「中止」「凍結」を表明。原発予定地の北東約120キロの広島県世羅町でも「ノー」の声が上がった。

 町議会(定数16)は6月下旬、「上関をはじめ原発の新設や増設計画はすべて中止」とする意見書を可決した。「原発事故が起きると、放射性物質は広範囲に広がる」「世羅のような農村も、大きな被害を受ける」。議長を除く採決は賛成14、反対1だった。

 「しがらみに捉われず、住民の生命や財産を守るのが政治の役割」。提案した豊田勲議員(70)は強調する。

医療などで貢献

 原発事故から4カ月。フクシマはヒロシマにさまざまな変化をもたらしてきた。

 15日には広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)の神谷研二所長(放射線障害医学)が、福島県立医科大(福島市)の非常勤副学長に就いた。

 広島大は福島大とも包括協定を締結。県立医科大、福島大と連携し、被曝医療や環境、心理面で支援をする方針だ。被爆から60年以上がたち「平和」「核」分野での後継者育成への課題が指摘されていた広島大。その存在意義に今また光が当たっている。=第3部おわり

(2011年7月18日朝刊掲載)

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