×

3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第4部 ヒバクシャを診る <4> 疫学調査

■記者 山本洋子

信頼形成の経験も助言

 広島市南区の高台に立つ放射線影響研究所(放影研)。被爆者約9万4千人を含む約12万人の集団を調査し、被曝(ひばく)と病気との因果関係を探り続けている。

 「福島への支援はこれから」。大久保利晃理事長(72)は27日にあった会議で、福島県立医科大(福島市)と協定締結に合意したことを明らかにした。同大は福島第1原発事故後の全県民を対象にした健康管理調査の立案を担当。そこに放影研のノウハウを生かす。

既に部長を派遣

 現場レベルでは既に5月から、小笹晃太郎疫学部長(55)を随時派遣。調査計画への助言を重ねている。データ解析や地域医療との連携などの蓄積への期待は高く、医科大側も「放影研の協力なしには調査は進まない」と信頼を置く。

 放影研は米国がつくった原爆傷害調査委員会(ABCC)の調査研究を引き継ぐ形で1975年4月に発足。日米両政府が運営する。疫学調査はABCC時代、50年の国勢調査を基に対象を選び、面接で被爆時の状態などを把握。追跡調査をし、白血病を含むがんの発症率の増加などを突き止めてきた。

 国が原発周辺の避難指示などの目安とした「年間被曝限度量20ミリシーベルト」は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告をベースにしたが、それも放影研の原爆被爆者の研究が基となっている。

 だが放影研も現状では150ミリシーベルト以下の「低線量被曝」の影響は解明できていない。

 福島での調査は、約200万人を対象にした世界に類のない大規模調査となる。注目が集まる一方、原発に振り回されてきた地域には戸惑いもある。「次の核被害のためのデータ集めのようで」。飯舘村のNPO職員、小林麻里さん(46)は複雑な思いだ。

粘り強さが必要

 放影研も過去、「検査しても治療せず」と被爆者の不信を招いた。「性急な姿勢は信頼を損ないかねない」と、放影研の藤原佐枝子臨床研究部長(58)。58年から12万人のうち約2万人を対象にしている健診の受診率は現在、約7割と高い。不信を拭い去ろうと、コンタクター(連絡員)と呼ばれる職員が被爆者の自宅を一軒一軒訪問。相談に乗り、粘り強く信頼を得てきた結果でもある。

 70年代から放影研の調査に協力する被爆者の河野昭人さん(84)=広島市東区。「福島の人たちの不安はよく分かる。私たちの研究の成果を福島で役立ててほしい」。そう願う。

(2011年7月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ