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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第4部 ヒバクシャを診る <5> 健康管理

■記者 金崎由美

継続健診 受け皿不可欠

 「体調はいかがですか」。広島市中区の広島原爆障害対策協議会(原対協)健康管理・増進センターの診察室。佐々木英夫所長(63)が穏やかな声で、岸岡一子さん(76)=広島市南区=に語りかけた。首に手を伸ばし、指で甲状腺を触診する。「ちょっと大きいかな」

年2回欠かさず

 岸岡さんは爆心地から約1.5キロ、現在の南区皆実町にあった自宅で閃光(せんこう)を浴びた。10歳だった。「いつも病気が気がかりなんです」。無料で年2回受けられる健康診断を欠かすことはない。

 佐々木医師は「(放射線の影響を受けやすい)若年で被爆した人が『がん年齢』を迎えている。かかりつけ医の補完として健診を受け、病気の早期発見につなげてほしい」と意義を強調する。

 広島市の場合、被爆者は原対協をはじめ130の医療機関で年2回の健康診断やがん検診を受けられる。いずれも無料。受診者の約3分の2は原対協を利用する。

 国の健診制度が始まったのは、原爆医療法ができた1957年。被爆から12年がたっていた。原対協はその4年前、放置されたに等しい環境にあった被爆者を医療面から救済しようと、広島市医師会や市などが協力し設立した。

 定期健診や人間ドックが現在ほど普及していなかった時代。現場の医師の声を基に、原対協独自で、あるいは市からの委託で検査内容を充実させた。原爆被爆という前例のない人的被害と向き合い、被爆者に寄り添う医師や行政が健康管理をサポートする受け皿をつくってきた。

 24日に福島県庁であった県民健康管理調査検討委員会で、座長の山下俊一福島県立医科大副学長(59)は、原対協を念頭に「調査には受け皿が求められる」と発言。ヒロシマ・ナガサキの先例が参考になるとの見方を示した。

対象者が桁違い

 ただ課題はある。広島市内の被爆者は6万8886人。全国では21万9410人だ。福島県民は約200万人。対象は桁違いに多い。福島県立医科大の阿部正文副学長(64)は「オール・ジャパンの体制を」と訴える。

 健康管理は、始めるだけでなく続けることも肝心だ。原対協健康管理・増進センター前所長の伊藤千賀子医師(71)は「健診への信頼があってこそ、継続的な受診につながる。健診の精度を上げ、出張健診などで受診しやすくする工夫も必要」と提案。受診者の心の不安も取り除く「ソフト面」の大切さも説く。

 ヒバクシャの健康に国が責任を持つとともに、健診の積み重ねを「二度と被害者を出さない」ことにつなげる―。フクシマでも問われることになる。

(2011年7月30日朝刊掲載)

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