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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第5部 今やるべきこと <2>

日弁連災害復興支援委員会副委員長 今田健太郎弁護士

司法救済 機会均等に

 福島第1原発事故の被害者と東京電力は9月1日、「裁判外紛争解決手続き(ADR)」で損害賠償交渉を始める。しかし国は、原発被害のためのADRセンターを福島県郡山市と東京にしかつくらない。これはおかしい。

拠点2ヵ所だけ

 福島から全国各地への避難者は約5万人。中国地方にも約820人が暮らす。これに対し、原発ADRの拠点が東日本の2カ所とは少なすぎる。「交通費の負担が苦しい」「遠くなので面倒」と、賠償請求を諦める人が出る恐れがある。

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は8月上旬、賠償の範囲や金額の基準について中間指針を示した。賠償交渉がスムーズに進めばいいが、もめると裁判となる。費用や時間がかかるうえ、被災者は精神的負担も抱えることになる。

 そのため紛争審はADRの活用を決めた。中立な立場の弁護士や専門家が和解の仲裁などに当たる制度だ。医療関連のADRの場合、数日の話し合いで、申立費用は約1万円。民事上の紛争解決手段として近年広まっている。この制度を利用するために、遠方まで出向かなければいけなかったりするのでは本末転倒だ。

被爆の苦労教訓

 日弁連災害復興支援委員会の副委員長に就いて5年目。原発事故後、ヒロシマの弁護士であることを強く意識している。原発事故による被災者の司法救済の機会不均等を生んではいけない。同じような苦労をしたのが、在外被爆者だった。広島や長崎で被爆しながらその後、帰国や移民などをしたため長い間、日本政府の支援の手は届かなかった。

 例えば被爆者健康手帳の申請手続き。当初は本人の来日が義務付けられた。国が在外公館での申請を認めたのは、被爆から60年以上が過ぎた2008年になってからだ。今回の被災者に対して、国はどこに住んでいようと同じように救済すべきだ。

 広島弁護士会は現在、独自に被災者の心のケアに取り組んでいる。被爆者が体験したのと同じく、放射線を浴びたという偏見や、心ない言葉に苦しんでいる人がいる。このため社会福祉士たちと一緒に相談に乗る体制を整えた。

 フクシマに寄り添う。そのために、ヒロシマは司法面でも体験や蓄積を生かす必要があると痛感している。(下久保聖司)

いまだ・けんたろう
 1976年、東広島市生まれ。一橋大卒。2年間勤めた大手ゼネコンを退職。2001年に司法試験に合格した。広島市と東広島市に事務所を置く弁護士法人あすか所属。広島市南区在住。

(2011年8月29日朝刊掲載)

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