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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第7部 復興と現実 <1> 山林除染

政府 宅地優先で後回し

 福島県のコメから、国の暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)を超す放射能の検出が続いている。11月中旬になって、国は福島市や伊達市の一部地域に、コメの出荷停止を相次いで指示した。田植え前の土壌検査では、基準値をクリアしていたはずなのに―。

強制移住レベル

 「放射性物質を含む山の水が水田に流入したことが一因の可能性が高い」。新潟大農学部の野中昌法教授(土壌環境学)はそう指摘する。その根拠は、二本松市で9月に行った調査だ。

 福島第1原発から北西約45キロにある同市東和地区。千平方メートルの水田を調べたところ、山水の取水口近くの土壌から、1キロ当たり4500ベクレルの放射能を検出した。作付け制限基準(5千ベクレル)に迫る値だ。しかし取水口から離れた水田の端では、千ベクレル程度。「取水口近くに蓄積されていた。山の水が汚染を生んでいると考えるのが自然」という。

 山林の放射能汚染については、国などの調査データがある。二本松市に隣接する川俣町では、山の落ち葉や土壌表層から、チェルノブイリ原発事故(1986年)の強制移住レベルに相当する値が検出された。

 しかし現在、地域の放射性物質を減少させる除染作業は、放射線量が局地的に高い「ホットスポット」を中心に始まっている。それは市民生活を取り戻すことが目的のため、居住地がメーン。山林は後回しというのが現状だ。

 福島県は森林が約97万ヘクタールと、県土の約7割を占める。政府は8月に発表した除染緊急実施基本方針に基づき、山林については住宅地近くに限定。「山林のふちから20メートル内部までの範囲で、落ち葉を取り除くのが効果的」としたにとどまる。

簡易ダムを検討

 この政府方針を、野中教授は「対症療法」とみる。「問題を先送りし、核心的な議論を避けたままだ」

 農地を潤す水は山から流れ込む。豪雪に包まれる冬が訪れた今、山の除染は事実上不可能だ。そして迎える春には、放射性物質を含む雪解け水が山を下る。

 「手をこまねいてばかりではいられない」。二本松市東和地区の農業佐藤佐市さん(59)は力を込める。有機農業に取り組む地区内の約260戸を束ねる。知恵を求めたのが、野中教授だった。

 アイデアの一つが、山の汚染水をせき止める簡易ダムの建設。古いため池が活用できそうだ。農業用水路には除去フィルターを設置する予定だ。

 佐藤さんの野菜も、風評被害で思うように売れない。「絶対、農業をあきらめない」。阿武隈高地の峰を見上げて、そう誓う。(山本洋子、河野揚)

 復興への確かな道筋を描けぬまま、フクシマは師走を迎えた。広く拡散した放射性物質の影響の深刻さに、住民の不安と焦燥は募る。復興を阻む現実と課題を探る。

(2011年12月6日朝刊掲載)

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