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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第7部 復興と現実 <4> リスク開示

判断材料を隠さず共有

 「リスクコミュニケーション」という概念が注目されている。

 「政治家や官僚は有事に混乱を恐れず、まず情報を公開する。解説もする。それを基に専門家と市民が意見を交わす中で、市民自らが判断できるようになっていくこと」

 提唱者の一人、大阪大の鈴木秀美教授(憲法、情報法)はそう説く。かつて、広島大に約4年半勤めた。「原爆投下直後、放射線の恐ろしさを米国は意図的に隠した。66年もたって同じことを繰り返してはいけない」

値札に線量明記

 東京都港区で通販大手会社が営む雑貨店。福島第1原発事故の被災地支援として、特別に生鮮食品を店頭に並べている。ネギやリンゴ、ジャガイモの値札には「測定結果 セシウム137 10ベクレル以下」。放射線量の測定値を書き添えている。福島県内の契約農家から直接仕入れ、毎朝スタッフが計測する。

 「今やるべきことは、徹底した情報開示だと考えた」。雑貨店運営会社の斉藤憶良(おくら)社長は言う。農作物全般に対する国の暫定基準値は1キロ当たり500ベクレル。しかし、これが果たして安全の線引きとして妥当な数字なのか。誰も保障はできないだろう。

 この店の基準は1キロ当たりの野菜で40ベクレル、果物で70ベクレル。国の基準よりも大幅に引き下げている。チェルノブイリ原発事故(1986年)を経験したウクライナの基準を参考にしたという。

 政府もリスクコミュニケーションについてようやく検討を始めた。

 今月1日、内閣府が港区で開いた低線量被曝(ひばく)のリスク管理ワーキンググループ(WG)。リスクコミュニケーションのあり方が議題となった。所管大臣として出席したのは、細野豪志原発事故担当相だ。

 「政府による情報隠し」。福島県民を中心に、国民の怒りが今も収まらないのは、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の結果公表が、事故から1カ月半も後だったことだ。「パニックを避けたかった」。首相補佐官として記者会見でそれを認めた本人である。

拠点設置を提言

 WG委員である広島大原爆放射線医科学研究所(原医研)の神谷研二所長は席上、こう提言した。「個人の被曝線量はいくらか、食品は大丈夫か、何でも答えられるセンターをつくったらどうか」。細野氏は応じた。「有用な考え。国も全面的に支援したい」と。

 原発事故から間もなく9カ月。しかし第1原発は今も放射性物質を流出させている。そして福島県での復興に向けた除染や健康管理調査は始まったばかりだ。リスク「ゼロ」。そこに至るまでにはなお膨大な時間がかかる。(下久保聖司、山本洋子)

(2011年12月9日朝刊掲載)

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