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連載・特集

憲法は今 <中> 問い続ける 平和望む劇に切迫感

弁護士仲間の意識に差

 ♪日本人は戦争の惨禍に深く学び、武力に頼らない平和な世界を憲法9条に託しました―。広島市中区の広島弁護士会館の一室に朗らかな歌声が響く。1994年以来、3日の憲法記念日に上演してきたミュージカル風の憲法劇。ことしも弁護士や市民約60人が練習に励む。

 劇は、戦争放棄を掲げる9条改正の是非を問う。タイトルは「憲法改正狂想曲」。2015年に改憲の国民投票の結果が発表される場面で幕を開け、賛成票が反対票を僅差で上回り、改憲が決まる。首相は軍備増強で「強い国」を目指す意向を表明。「戦争ができる国になる」と危ぶむ護憲派との攻防が展開する。

 中心となるのは、広島弁護士会の護憲派弁護士たち。文学部出身の広島敦隆弁護士(69)が初回から一貫して脚本を担当。堅い印象がある憲法に親しみを持ってもらおうと、コメディー風に仕立ててきたが、今回は苦労した。「改憲の動きが具体的に進み、かつてない切迫感があった」と明かす。

 今国会では、改正の手続きを確定させる国民投票法の改正案の審議が進んでおり、成立が確実視されている。安倍政権は集団的自衛権の行使容認に向け、憲法解釈を変更するための自衛隊法や周辺事態法など関連法の改正も検討中だ。

 昨年12月には、防衛や外交の情報を特定秘密に指定し、漏らした公務員らに最長懲役10年を科す特定秘密保護法が成立。知る権利や表現の自由を侵害する恐れも指摘され、同法反対も劇の柱に据えた。「権力者が国民に情報を隠し始めると戦争につながっていく」。広島弁護士は危機感を強める。

 ただ、弁護士会には、護憲派の取り組みに異論もある。あるベテラン弁護士は、戦力の不保持を明記した憲法9条を持ち出し「自衛隊は実際には軍隊に等しい。現状に即すためには改憲も仕方ない」と話す。

 「身近な司法」を掲げた司法改革を受け、広島弁護士会の会員数は528人と、10年前の04年の282人から1・9倍に増えた。弁護士間の競争が激化する中、若手には冷ややかな声もある。ある30代の弁護士は「憲法に特に関心はない。日常の相談業務で扱うことはほとんどない」と話す。

 21年目を迎える憲法劇。「憲法は、国民が平和な生活をするための出発点だ。守る意識を広く伝える取り組みはずっと続けたい。改憲を防ぐムードにつながる」。広島弁護士は、憲法記念日だけに上演してきた憲法劇の歌を、他の集会でも披露することを考えている。(根石大輔、写真も)

国民投票法
 憲法改正の是非を問う国民投票の手続きを定めた法律。第1次安倍内閣当時の2007年5月に成立した。付則では、投票年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げることや、公務員の自由な改憲論議を可能にする政治的行為の制限緩和について、10年の施行までに法制上の措置を取るよう求めたが、実現しなかった。この2点が決着しなければ国民投票の実施は難しいとされる。

(2014年5月2日朝刊掲載)

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