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命の尊厳 宗派超え学ぶ ヨハネ・パウロ2世の平和アピール 広島県宗教連盟 来年2月に会議

核廃絶へ共同宣言目指す

 神道、仏教、キリスト教の社寺や教会でつくる広島県宗教連盟が来年2月、長崎県の宗教者とともに「広島・長崎宗教者平和会議」を広島市内で開く。ローマ法王(教皇)ヨハネ・パウロ2世(在位1978~2005年)が広島で読み上げた平和アピールをあらためて学び、核兵器廃絶や命の尊厳を軸に宗派を超えた共同宣言を目指す。ヨハネ・パウロ2世が4月、カトリック教会で最高の崇敬対象である「聖人」となったのがきっかけ。世界へヒロシマを説いた姿を、被爆地の宗教者たちは「学ぶべき平和運動」の象徴として捉え直す。(桜井邦彦)

 「戦争は人間のしわざです。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です」

 1981年2月25日、ヨハネ・パウロ2世は約2万5千人が集まった平和記念公園(広島市中区)から、全世界に訴えた。カトリック広島司教区の前田万葉教区長(65)は当時、長崎にいて、テレビでアピールを聞いた。翌26日に長崎市内のミサ会場で、退場するヨハネ・パウロ2世に手を伸ばし、軽く握り返してもらった。

聖人 異例の早さ

 あれから33年。「広島と縁のある教皇が聖人になり、身内のような感動があった」。バチカンのサンピエトロ広場で4月にあった列聖式にも出席し、死後9年という異例の早さでなった聖人に思いをはせた。「『過去を振り返ることは将来に対して責任を担うこと』とする平和アピールを、私たちはどれだけ、自分のものにできているだろうか」と自問したという。

 戦後まもなくできた県宗連。理事に神道・仏教7宗派、キリスト教4教派の33人が名を連ねる。被爆地のつながりで長崎県の宗教者と会議を1986年から毎年開き、平和のため宗教者が果たす役割などを考えてきた。来年は30回目。ことし県宗連理事長に就いた前田教区長は「被爆70年でもある。平和アピールをもう一度学び直し現代社会に生かせないか」と願う。

 共同宣言を目指す方針は今月22日、中区であった県宗連の総会でキリスト教関係者が提案し、決まった。約20人の参加者を前に前田教区長は「ヒロシマ、ナガサキの宗教者の声として発表したい」と呼び掛けた。平和会議での宣言が実れば来年6月、長崎と合同でバチカンを訪れ、教皇庁に宣言を届ける計画。教皇フランシスコにも広島、長崎訪問を働き掛ける。

 県宗連理事でカトリック広島司教区の肥塚侾司神父(73)は平和アピールを、テレビの生中継の解説者として間近で聞いた。「各国の軍拡が進んだ東西冷戦下、アピールは、8月6日が人類史上でどんな意味があったかを考えるきっかけとなり、当時の平和運動に力を与えた」と分析し、「宗教を超えて、平和を考えさせられる根本的なテキスト」と位置付ける。

 中継席の肥塚神父の横には、被爆者による平和運動をリードしていた故森滝市郎さんが座っていた。森滝さんは、司教区の平和を願う会が82年に発行した文集に「いのちのためのアピール―一被爆者の感動」と題し、寄稿している。

「今も色あせぬ」

 この中で森滝さんは「平和アピールはもちろん不朽の平和聖典であるが、これをしっかりと受け止めて実践する義務は私たちの側にある」と記述。「ともすれば絶望し、悲観し、無力感に陥る私たちが、気をとりなおして、幾度でも立ち上がる妙薬」とも説いている。

 「広島を考えることは、核戦争を拒否することです。広島を考えることは、平和に対しての責任をとることです」。肥塚神父はアピールのこの部分は特に、「今読んでもまったく色あせない」と強調する。

 世界平和記念聖堂(中区)の前には、広島訪問を機に作られたヨハネ・パウロ2世の胸像がある。「平和な世界は不可能という人もいる。だが、絶対にできる。諦めてはいけない」とアピールに思いをはせる前田教区長。「自分だけの幸せだけでは本当の平和じゃない。一人一人が許しと和解に努力すれば、全世界は平和になるはず」と誓いを新たにする。

(2014年5月26日朝刊掲載)

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