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47万人避難 27時間50分 原発事故時 30キロ圏試算 島根・鳥取県

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)が立地する島根県と隣接する鳥取県が、原発事故が起きた際の住民の避難時間シミュレーションをまとめたことが28日、分かった。原子力防災の常識を覆した福島第1原発事故後、初の試算。原発30キロ圏の両県約47万人全員が30キロ圏外へ避難するのにかかる標準的な時間は27時間50分に達した。

 両県が三菱重工業(東京)に委託。18万2090世帯47万745人の主な避難手段を自家用車18万8500台とし、バス450台も活用するとした。標準的なケースは夏場の平日の昼間に事故が起きた場合で、5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)がまず避難。その後5~10キロ、10~20キロ、20~30キロと段階的に避難すれば、5キロ圏は2時間30分で5キロ圏外への避難を終えるとした。

 30キロ圏内の人が一斉に避難した場合も試算。完了時間は21時間45分としたが、交通渋滞が発生し、5キロ圏の避難には段階的避難の4倍に当たる10時間を要すると見込む。

 島根、鳥取県は原発30キロ圏の松江、出雲、雲南、安来、米子、境港の6市の約47万人を両県と広島、岡山県の4県69市町村に避難させる計画。有効な避難方法を探り、避難ルートの改善を図ろうと2012年11月に試算に着手した。積雪など道路状況が悪い冬季や観光客が集中した場合も含め8パターンで試算しており30日、2県6市の防災担当者を集めて松江市で開く会議で正式に公表する。(樋口浩二)

【解説】甘い想定 対応急げ

 島根原発の事故に備え、原発30キロ圏の島根、鳥取県が初めて住民の避難時間を試算した。確実に不足する要援護者の搬送手段が調達されるとの想定で、避難所の到着までに欠かせない放射性物質の付着検査(スクリーニング)に伴う避難時間の遅れも織り込んでいない。シナリオ通り避難が完了するかどうかは疑問だ。

 両県によると、30キロ圏内の社会福祉施設の入所者や入院患者、幼稚園、保育園児たち自力避難が難しい災害時要援護者は約7万5千人に上る。原発から約5キロの介護老人福祉施設「ゆうなぎ苑」(松江市)の場合、入所者50人の約9割が車いす利用者だが避難に使える福祉車両は6台。「調達に向けた県や国の支援が不可欠」(同苑)なのは他の施設にも共通する課題だ。県は国に解決策の提示を求め続けているが、示されていない。

 さらに両県は、スクリーニング地点を30キロ圏外にある国道上など県内の複数箇所と見込む。検査に時間がかかるため、30キロ圏内の避難が滞るのは必至だ。放射線技師たち検査人員の動員計画は未定で、今回の試算でも考慮されていない。両県には、避難時間の予測結果を一つの目安と受け止め、直面する課題の解決を急ぐ姿勢が求められる。(樋口浩二)

(2014年5月29日朝刊掲載)

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