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検証 島根原発事故 27時間避難 <上> 手段 車では大渋滞 バス不足

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故に伴う原発30キロ圏外への標準的な避難時間は27時間50分―。福島第1原発事故から3年余りを経て、島根、鳥取両県が初めての試算を公表した。30キロ圏約47万人が避難する際の交通手段や災害弱者の誘導など山積する課題を探り、その実効性を検証する。(樋口浩二)

 同市中心部の宍道湖と大橋川を南北に結ぶ5橋のうち原発に最も近い宍道湖大橋。事故の際は、原発がある「橋北」から「橋南」へ住民が逃げる最重要ルートとなる。「必ず大渋滞が起こる。30キロ圏外に脱出できるだろうか」。試算が公表された翌31日、近くの石富和彦さん(73)は漏らした。

 両県が避難手段の中心と見込むのはマイカーだ。試算では18万8500台を使うと想定した。当初は大量輸送できるバスを軸に検討したが、調達困難とみて切り替えた。「相当なリスクを覚悟する必要がある」と松江高専の浅田純作教授(災害社会工学)。2012年1月に独自の避難予測をまとめた経験からだ。

 浅田教授の試算は原発20キロ圏の約20万人が避難する前提。それでも避難開始1時間後に4万台、2時間後に7万台が市中心部に流れ込むとした。国土交通省によると、宍道湖大橋など交通量が多い市内の県道や国道は1日トータルでも1万~4万台。浅田教授は地震の影響で停電が起き、信号が停止すれば避難完了は予測できないと結論付けた。両県の試算では考慮されなかった条件だ。

 未曽有の「避難渋滞」に備え、県警は警官が幹線道路で誘導する計画を描く。停電を想定し昨年9月以降、県内全1366カ所の信号のうち101カ所を発電機と接続すれば起動するタイプに改修した。だが「災害現場に向かう警官も必要で人員不足もありえる」と交通規制課の小泉博志管理官。「一つずつ課題を解消するしかない」

 一方のバスは圧倒的な不足が見込まれる。原発30キロ圏の松江、出雲、雲南、安来、米子、境港の6市の民間、市営バスは計約800台。被災者の3割がバス避難した福島の事故を参考にすれば、避難に必要な5640台の2割に届かない。大半が運行中で、即時調達も困難。広島、山口、岡山の3県から貸し切りバスを調達しても約2600台上乗せできるにとどまる。

 調達時間も考慮すれば避難時間は膨らみ、渋滞に拍車が掛かる。そんな中、両県はスムーズな避難に向け初めて「段階的避難」を打ち出した。原発5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)の住民をまず避難させ、5~10キロ、10~20キロ圏と順に避難を開始させるという。

 「行政からの情報は一切入らなかった」。福島の事故の5日後、原発から約32キロの福島県いわき市から出雲市に避難した吉田勉子さん(73)は振り返る。「事故後は皆パニックになる。本気で段階避難するなら、事前に徹底して周知しないと厳しいだろう」

(2014年6月1日朝刊掲載)

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