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連載・特集

『生きて』 報道写真家 桑原史成さん <1> ドキュメント

「時代」狙い続け半世紀

 水俣病、韓国の民主化運動、ベトナム戦争…。島根県津和野町出身の報道写真家、桑原史成(しせい)さん(77)=東京都江東区=は、激動の戦後史をカメラで追い続けている。これまでに撮影した写真は約100万カット。半世紀を超える水俣病取材が評価され、4月に土門拳賞を受けた。

 水俣病の取材を始めたのが、東京農業大を卒業した直後の1960年7月。鈍重な性格だから、長く仕事を続けることができたと思っています。気負わず、焦らず、じっくりと先を読む。そんな54年間でした。

  2013年9月に出版した写真集「水俣事件」。厳選した117カットが土門拳賞を引き寄せた

 自分の仕事はニュースではなく、ドキュメント。日々のニュースを追う新聞社のカメラマンは会社員だから、心に決めたテーマを思う存分に追うことは難しい。ドキュメントは、同じテーマを丹念に追い続けることに価値があるんです。

 水俣病の取材こそ、ドキュメントでした。発病の原因も分からず、新日本窒素肥料(現チッソ)がメチル水銀を海に流し続けていた時代に撮影を始めました。公害病の患者認定をめぐって、チッソや行政の責任を今なお追及し続ける患者の活動も追っています。昨年は、名前に「水俣」を冠した水銀規制の国際条約会議を取材しました。ドキュメントにはニュースのような派手さはない。だけど、長い時間をかけて撮影し続けた写真には、何物にも替え難い記録性があるのです。

  報道写真家の仕事を「狩猟」に例える

 猟師が銃に弾を込めて、狙いを絞って獣を撃つようにシャッターを切る。報道写真家の仕事は、「時代」という大きな獲物を狙うようなものです。テーマ設定から機材の準備、資金調達まで準備万端整えて、一気呵成(かせい)に獲物に食らいつく。

 新たな獲物を追うことを可能にするのは体力です。喜寿(77歳)を迎え、傘寿(80歳)も近くなったので、これまで追ってきたテーマを補強することしかできません。次から次へと生まれる空白を埋めるような仕事を続けたいと思っています。(この連載は文化部・石川昌義が担当します)

(2014年5月13日朝刊掲載)

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