×

連載・特集

『生きて』 報道写真家 桑原史成さん <15> 津和野

ギャラリー開館 古里撮る

 1997年4月、島根県津和野町のJR津和野駅前に、津和野現代フォトギャラリー(現桑原史成写真美術館)がオープンした

 当時の町長だった中島巌さんは小中学校の3年先輩。頭のいい人でね。木部村(現津和野町)の収入役をしていた父が、中学校を卒業したばかりの中島さんを職員に採用したんです。町長になった中島さんが「津和野には歴史はあるが、現代がない」「史(ふみ)ちゃんの写真ギャラリーを造ろう」と言うんです。民具を収蔵していた町産業資料館を改装したギャラリーには、千数百枚のオリジナルプリントを収蔵しています。

 開館当日には、東京の写真学校で同期生だった英(はなぶさ)伸三や、ソ連取材の助手のセルゲイもやって来ました。みんなを実家に招くと、おふくろが団子やかしわ餅でもてなしてね。楽しかったな。

 ギャラリーのオープンを機に、古里とのつながりが深まる

 2011年には「ふるさと」という写真展を津和野のギャラリーで開きました。子連れで帰省した時に野山で遊んだり、実家の五右衛門風呂に入れたりした時の写真や、認知症の症状が出始めた母を父が自宅で支える「老老介護」の記録を出品しました。

 母は10年に94歳で亡くなりました。100歳になった父は、町内の特別養護老人ホームにいます。親の介護で帰省する機会が増えました。実家近くの神社であった村芝居や、津和野の伝統行事「鷺舞(さぎまい)」を撮ろうと思ったのも、最近のことです。

 この4月は、幼なじみや親戚が土門拳賞の受賞祝いの席を設けてくれました。木部の地区民運動会にも招待されて、にぎやかでした。古里を離れて60年近くなるのに、「史ちゃん」と心やすく呼んでくれる人がいるのはありがたいことです。

 母校の木部中は12年3月で廃校になった。集落の過疎化は進む

 みんなが集まった時に、記念写真のシャッターを切るのが楽しいんです。時代を切り取る報道写真家の仕事をしてきた経験から言えるのは、「写真の最大の特質は記録」ということ。笑顔を集めた記念写真は将来、古里の「今」を刻んだ宝になるのではないでしょうか。

(2014年5月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ