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連載・特集

海自呉地方隊60年 第3部 自衛官になる <3> 身体強化 強い心支える強靱な体

 歯を食いしばる。顔をしかめながら腕を曲げ、顎を地面すれすれに近づける。10回繰り返すと、姿勢を保てなくなる。腕は震える。

筋トレ欠かさず

 海上自衛隊呉教育隊では、午前、午後の教務の前に必ず腕立て伏せ、そして腹筋に取り組む。「みんな笑顔を忘れているぞ」。学生とは対照的に、教官は涼しい顔で軽々と腕を曲げる。

 レスリングやサッカー、バレーボールなど全国大会で活躍した学生もいる。だが体力自慢は一握り。どこにでもいる若者だ。自衛官候補生(自候生)の片山雄大さん(20)は「毎日筋トレする生活は初めて」と苦笑する。

 学生は筆記試験と面接、身体検査などを経て入隊した。教官たちは口々に言う。「自衛官に必要な体力を養うのが教育隊」。腕立て伏せや腹筋のほか、懸垂、水泳…。教官がフォームを一から教え込む。入隊時にできなくても構わないという。

 夕方には「別課」と呼ばれる補習も。水泳や持久走、インターバル走、懸垂、筋力トレーニング。苦手分野の指導を受ける。土日も希望者にはプールとグラウンドを開放する。

任務遂行の基盤

 体力は任務を遂行する上での基盤だ。水泳と運動能力の測定は部隊に配属されてからも年1回ある。1~6級に認定され、水泳と運動ともに1級なら金、どちらか一つで銀記章が与えられる。いずれも6級をクリアできない場合は級外。水泳が「赤帽」、運動能力が「赤靴」と呼ばれる。

 「自分は赤帽」と自候生佐藤慶太さん(22)が明かす。柔道部出身だが、水泳は小学校卒業以来。入隊直後の測定は「もがいて何とか50メートルを泳ぎ切った」。水泳は自分の身を守る技術の一つ。休日も自主練習に励む。

 高校時代に水泳部だった自候生の中田幸生さん(19)は最初、腕立て伏せの姿勢が保てなかった。今は次の測定が待ち遠しい。「4級か5級はいける」

 呉教育隊の茂津目晴道司令(55)=1佐=は胸に金記章が輝く。「船に乗ると体を動かす時間がなかなか取れない。どんどん鍛えてほしい。自衛官は戦う人」。強い心を支える強靱(きょうじん)な体が必要なのだ。(広重久美子)

体力測定
 水泳と運動能力がある。性別、年齢別に基準を設け、1~6級に認定する。水泳は自由形と平泳ぎの2種目(50メートル)で、平泳ぎは男性の29歳以下で40秒未満が1級、51秒以上54秒未満が6級。運動能力は腕立て伏せと腹筋、3000メートル走、懸垂、走り幅跳び、ソフトボール投げの6種目。腕立て伏せは男性の24歳以下が2分間で82回できれば1級、40回で6級。

(2014年6月5日朝刊掲載)

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