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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 自民党元幹事長・加藤紘一さん 

感情論で右傾化 危うい

沈黙ハト派にいら立ち

 国会論戦を聞いていても、安倍政権がなぜ今、集団的自衛権の行使を認めねばならないのか、よく分からない。かねがねのわが国の外交、安全保障の懸案を取り除きたいということだろうが、では、なぜ今か。国民の腹に落ちる答えは見当たらない。

 いったん容認すると、米国の要請で自衛隊が地球の裏側まで行くことは十分想定される。自衛隊には自国を守ると決意して入った人が多くいるが、いざ有事になれば、強制動員する必要があるかもしれない。集団的自衛権をめぐる問題は、徴兵制まで行き着きかねない。だから解釈改憲では危ない。正面から改憲論議をするべきだ。

 憲法9条は変えない方がいい。戦後はまだ70年に満たないことを考えてほしい。日本はよくここまで国際的な信用を取り戻したと思う。それは今の憲法があったからじゃないか。

 1972年、衆院旧山形2区で初当選。2012年の衆院選で落選し、昨年、政界引退を表明した。自民党幹事長、官房長官などの要職を歴任した。

 前回の党総裁選や衆院選で安倍晋三首相が集団的自衛権を問うて勝ち抜いたかというと、その印象は薄い。でも保守党の政治家である以上、バランスを取り、先々を読んで丁寧にやるだろうと思ったら、がんがん突き進む。国民に不安感が出てきている。

 戦後日本で平和を求めた最大勢力はだれか。戦争を経験した保守系無所属層だ。各地域のそういう人々が自民党の歴代内閣の不戦方針を支えた。私の支援者にも多くいたが、平和を求める思いは半端なく強かった。

 日本の右傾化は、戦争を経験した人が次々と亡くなっていることと無関係じゃない。そして、一貫して自民党支持を公言してきた人たちのリベンジが背景にある。

 戦後、学識ある人はマルクス・レーニン主義を唱えないと論争できなかった。自民党的な「臭い」はおかしい、とさえ言われた。自民党支持を公言し、筋を通してきた人たちは、ベルリンの壁崩壊や民主党政権の失敗に「それみたことか」と。だから「今こそ決着を」というような感情論がある。感情論では危ういし、保守系無所属層は置いてきぼりだ。

 「軽武装・経済重視」の保守本流路線を自負する自民党の伝統派閥「宏池会」の会長を務めた。党内のハト派勢力の存在感が薄い中、5月、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」のインタビューに応じ、集団的自衛権をめぐる議論の現状に警鐘を鳴らした。

 自民党の政治勢力分布は、安倍首相を中心としたグループの単純1強。首相が組閣、党人事で主導権を発揮すると公言するから、議員がものを言わない。ハト派が声を出さないから、赤旗にも出た。私を推してくれた人たちのため、政界を引退しても話す義務があると思っている。

 自民党は、保守というものをきちんと定義しなければならない。安倍首相は「日本を取り戻す」と繰り返すが、どういう日本を取り戻すのか。憲法改正、靖国神社参拝、「美しい日本」といった言葉しか出てこない。

 保守の原点はイデオロギーではなく、日本社会を運営し、地域を取りまとめてきたソフトだと思う。この国がどうやってまとまってきたか。地域を、足元を見つめ、考えないといけない。(聞き手は城戸収)

(2014年6月10日朝刊掲載)

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