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連載・特集

緑地帯 広島「女縁」の現在 高雄きくえ <5>

 月刊家族が「女性への暴力」を取り上げたのは2000年5月号。広島県内でフィリピン人女性を妻に持つ男性が妻と幼い子ども2人の首を絞め、無理心中をしたという事件があったと知った。

 私はこの事件は「家庭内暴力」について、あるいは日本に暮らすフィリピン人女性の状況について重要なことを伝えていると直感し、妻の知り合いだった友人と現場の家を訪ね、当時の県内のドメスティック・バイオレンス(DV)の実態に迫る特集を組んだ。

 なぜ彼女は死ななければならなかったのか。DV防止法が成立する前のことだが、私の「暴力」への直接的な関心の契機となり、以後たびたび取り上げた。

 DV防止法は、1990年代に入り、全国的な被害実態調査を実施した民間の女性団体が、必要性を訴え、2001年にようやく成立した。それまで草の根の女性有志が運営していたシェルター活動や相談事業も、各自治体に施策義務が課せられるようになった。

 私も6年間シェルターを友人たちと運営し、駆け込む被害女性や子どもを支援した。それまで「家族」を問題として取り組みながら、こんなにDVが多いとは知らなかった。がくぜんとした。「見えない暴力」だったのだ。

 なぜ日常の中で起きているのに見えなかったのか。夫婦げんかは犬も食わないと、一笑に付されてきたのだろうか。世の中には「見える暴力」と「見えない暴力」があるらしい。私に、ようやく「原子爆弾」という暴力被害地である「ヒロシマ」が見えてきた。(ひろしま女性学研究所代表=広島市)

(2014年6月7日朝刊掲載)

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