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連載・特集

基地のまちは今 米軍再編 重み増す岩国 普天間の給油機 来月上旬移転開始 

 在日米軍再編に伴い、米海兵隊岩国基地(岩国市)に7月上旬から、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)のKC130空中給油機15機が移転する。2017年ごろまでには、米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機が移転を予定。岩国は極東最大級の基地へと姿を変える。普天間返還合意以降で初となる本土への部隊移転の持つ意味を考える。(野田華奈子)

移転後の訓練

鹿屋やグアムとローテ

 給油機15機とともに、隊員や家族たち約870人が岩国基地内に移る。岩国市と山口県に対する政府の説明では、8月下旬にかけて段階的に移転。訓練は普天間飛行場で実施されているタッチ・アンド・ゴー(離着陸訓練)が、岩国基地でも行われる見通しだ。

 普天間飛行場がある宜野湾市基地渉外課によると、飛行場での訓練ではタッチ・アンド・ゴーが長くて2時間ぐらい繰り返されることがあり、飛行場内ではエンジン調整もするという。

 複数の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを給油機が先導する飛行も目撃されており、輸送や訓練に同行する様子がうかがえる。沖縄県伊江島では、パラシュートを使った物資の投下訓練などを実施。岩国基地への移転後も伊江島での訓練は継続するとみられる。

 岩国市の福田良彦市長が昨年11月の沖縄訪問時に米軍側から受けた説明によると、給油機15機のうち数機は点検整備や海外展開などのため、実際の運用は10機程度になるという。

 さらに米軍再編計画では、岩国基地に集中する負担を緩和するため、給油機部隊の訓練や運用は海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県鹿屋市)、グアムとのローテーションで、定期的に実施される予定だ。現在、日米間で具体的な内容を協議しており、艦載機移転までには終える。

受け入れまでの経緯

沖縄の危険除去を重視

 岩国基地への給油機移転は滑走路の沖合移設が始まった1996年、沖縄の基地負担軽減を目的に設置された日米特別行動委員会(SACO)で合意。市は97年に容認した。その後、米軍再編計画に盛り込まれ、空母艦載機移転と関連付けられた。

 市と県は昨年12月、米軍の体制維持のため当初よりも3機増えた15機を移転させる政府方針を受け入れた。住宅地に隣接し、全面返還が急がれる普天間飛行場。その日常の危険をいち早く取り除くことの重要性を、受け入れの主な理由としている。

 現在の市庁舎整備をめぐって、03~06年度に給油機移転の容認に関連した補助金が交付された。しかし、前市長が艦載機の移転に反対する中、防衛省は07年度分の補助金支給を凍結。08年の市長選で初当選した福田市長が米軍再編への協力姿勢を伝え、約34億円が交付された経緯がある。

岩国基地と米軍再編

有事の対処能力高める

 米軍再編は兵力配備や基地機能の見直しであり、安全保障環境の変化に伴い有事の対処能力を高める狙いがある。

 北朝鮮や中国の動向が懸念される中、米国は安全保障戦略の重点をアジア太平洋地域に置き、同盟国との関係を強化する方針を打ち出している。安倍政権が憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に転じることになれば、岩国基地のありようはさらに変貌する可能性がある。

 岩国基地報道部は、給油機移転を「米軍再編上の合意事項を現実のものとする日米間の努力の過程において大きな節目」と位置づける。災害支援や不測の事態にも優れた能力を発揮するとし、「日米同盟やパートナー国を支える上でより即応性を高めることになる」と移転の意義を説明する。

 岩国基地の再編事業の総仕上げとなる艦載機59機の移転。隊員や家族計約3800人が移る。基地内では移転に向けた関連工事が着々と進む。愛宕山地域開発事業跡地では、米軍家族住宅と市民も利用できる運動施設の整備が国によって5月から始まった。住宅エリアに約270戸を建設。運動施設エリアには野球場や陸上競技場、コミュニティーセンターを配置する。

 だが再編後の具体的な運用や戦略的な位置づけと、それに伴うリスクは住民に十分説明されていない。基地拡大に反対する市民団体でつくる「愛宕山を守る市民連絡協議会」の岡村寛世話人代表(70)は「機能強化が際限なく進む一方、岩国がどう生きていくのかが見えない。国は米国に顔を向け地元は大事にされていない」と将来を不安視する。

 市は艦載機移転を「容認」と明言していない。国に要望する43項目の安心安全対策や地域振興策について「多くの市民が納得できる結果を出せるよう協議を進めている」とし、達成度を目安に結論を出す。

KC130空中給油機
 空中や地上でほかの航空機に給油する任務のほか、部隊や物資の輸送にあたる。機内や外付けのタンクからホースを通じて燃料を流す。最大輸送人員は92人。戦場など厳しい環境下でも短距離での発着が可能という。米軍普天間飛行場には現在、15機が配備されており、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ24機に次いで多い。米海兵隊岩国基地にもたびたび飛来している。

(2014年6月22日朝刊掲載)

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