×

社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 俳優・映画監督 杉野希妃さん 性急な進め方に危機感

安保環境 外交で解決を

 集団的自衛権の行使容認は多くの世論調査で反対の声が強い。にもかかわらず、国民の代表者があいまいな議論を繰り返し、性急に物事を進めている。危機感を抱かざるを得ない。憲法の解釈を変更して行使を容認するのなら、国民の大多数をきちんと説得する必要がある。

 安倍晋三首相は「積極的平和主義」を掲げる。しかし憲法9条が戦争放棄と戦力不保持を明言している中で、平和維持のために武力を行使できるようにする発想には矛盾を感じるし、都合よく言葉を使っているのではないかと思う。民主主義、平和主義とは何か。そんなことをあらためて考える機会を与えられている気がする。

 広島市南区出身。ノートルダム清心高を経て慶応大卒。2005年に留学先の韓国で俳優デビューし、08年に先輩プロデューサーと共同で映画製作会社を設立した。主演・プロデュースした「歓待」(10年)で、ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞。メーンプロデューサーを務めた最新作「ほとりの朔子(さくこ)」は、フランスのナント三大陸映画祭でグランプリ「金の気球賞」を受賞した。

 広島で生まれ育ち、学校の授業で、平和について考えてきた。戦争に関する本を読んだり、原爆ドームにたびたび足を運んだり、被爆者の証言を聞いたり…。正直言って、ここまでやる必要があるのかと思ったこともある。しかし今になって考えると、当時学んだことが私の血となり、肉になっている感覚がある。

 82歳になる父方の祖母は被爆者。私に直接体験を語りたがらないが、祖母の通った学校に遺体が積み上げられた状況や、髪の毛が全て抜けた友人のことを、父を通して聞いた。行使容認ですぐに戦争が起こるとは思わないが、広島の悲劇が繰り返される可能性が高まるのではないかとの懸念が拭えない。

 日本は戦後、平和国家として他国から評価されてきた。憲法9条は、無形の世界遺産に選ばれてもいいぐらいの価値があると思う。日本周辺の安全保障環境に問題があるのだとすれば、武力ではなく、外交で解決を目指すべきではないか。多くの先人たちが築き上げてきた平和国家の歩みを止めないでほしい。

 プロデューサーを務めた「おだやかな日常」(12年)は、福島第1原発事故による放射線の影響を心配する家族の姿を描いた。映画は、社会問題に対する人々の関心を高めるツールになると考えている。

 映画はそれ自体が完成品ではなく、観客のレスポンスがあって初めて完成されるもの。広島出身の映画人として平和や命の大切さを訴える作品を作り、広島で映画祭を開こうと考えている。さまざまな問題を提起し、見終わった後に友人同士や家族で話し合いの場を提供できる。そんな映画を作りたい。

 集団的自衛権の行使容認問題をはじめ、国政の動きに対して若者の関心は低いと感じる。「自分が何かしたところで、何も変わらない」という諦めに似た空気が漂っているのかもしれない。でもそんなことはない。そう伝えていきたい。(聞き手は松本恭治)

(2014年6月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ