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連載・特集

基地のまちは今 迫る給油機岩国移転 <下> 負担軽減 評価や懸念交錯の沖縄

振興策への依存に警鐘も

 沖縄県宜野湾市の嘉数高台公園から米軍普天間飛行場を見渡す。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが2機、ごう音と共に飛び立った。7月8日から米海兵隊岩国基地(岩国市)に移るKC130空中給油機も見える。日米両政府による1996年の普天間返還合意から18年。市街地の真ん中で騒音や墜落の危険性は放置されてきた。

 国内の米軍専用施設の7割が集中する沖縄県。政府は普天間問題の唯一の解決策として、名護市辺野古への移設を前進させようと懸命だ。安倍晋三首相は24日、首相官邸で開いた仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事たちとの会合で、負担軽減の「目に見える成果」として給油機移転をアピールした。

 移設先の辺野古周辺部の住民は、頭越しにもたらされようとしている新たな基地負担に揺れる。「漁業補償で賛成の立場にならざるを得ない人もいる。地域が分断され、しこりが残ってしまう」。27日、建設撤回を求める署名を沖縄県などに出した同市汀間地区の新名善治区長(60)は憤る。

 沖縄県と宜野湾市は、給油機の移転を「負担軽減につながる」と評価する。だが給油機は運用上、普天間や沖縄上空を引き続き使う。宜野湾市基地渉外課は「『本籍』だけ移った格好にならないか心配。移転前後の騒音測定値を比べたい」とする。

 元宜野湾市長の伊波洋一さん(62)は「負担軽減」の虚構を指摘する。「他の自治体が受け入れやすくなる口実にすぎず、実態は米国の都合。移転後の訓練空域は別の米軍機が飛ぶ可能性がある」

 在日米軍再編に伴う負担増が初めて現実となる岩国市。その市議会は23日、沖縄の基地負担軽減の取り組みを全国に働き掛ける決議をした。桑原敏幸議長(66)は基地を抱える自治体の首長や議長たちが議論する場を政府主導で設けるべきだと提案。5月、政府に申し入れた。

 「例えば辺野古移設までの間、普天間の負担の一部を引き受けることが考えられる。声を上げられるのは岩国しかない」と桑原議長。共鳴する沖縄県の座喜味一幸県議(64)は、「基地負担は不平等との思いがあり、連携できたのは一歩前進」とし、政府に「目に見える形での条件整備も必要」と注文する。

 呼応するように、岸信夫外務副大臣(山口2区)が山口県と岩国市に移転時期を伝えた5月27日、柳居俊学県議会議長(64)は「十分な振興策をいただきたい」と念押しした。岸氏は会談後、沖縄の負担軽減に協力した自治体向けの新たな交付金創設を2015年度予算で検討していることを明らかにした。

 負担とセットで語られる見返り。沖縄国際大大学院の前泊博盛教授(基地経済論)は沖縄の歩みを踏まえ「何が起こっても政府の金で封じられて文句が言えなくなり、有事の際の悲劇だけ負うことになる」と、振興策への依存に警鐘を鳴らす。(野田華奈子)

(2014年6月28日朝刊掲載)

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