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社説・コラム

著者に聞く 「二十歳の炎」 穂高健一さん 広島・福島 維新から続く縁

 幕末維新を語る上で、まず出てこないのが広島藩。その動きを本格的に追う小説はおそらく初めてだろう。「封印されてきた歴史に光を当てたつもり」

 実在した藩士高間省三を主人公とする。「神機隊」と呼ばれる農民兵の部隊を率いて戊辰戦争に加わり、福島県浜通りの戦場で満20歳の命を散らした。熱く一本気な本人のキャラクターや幼なじみとの愛などフィクション部分もあるが「架空の人物は誰一人登場しません」。できる限り史料に当たり、忠実な歴史再現を心掛けたという。

 執筆は苦労続きだった。自宅のある東京から広島に繰り返し足を運んだが「どこに行っても原爆で焼失して資料はないと言われ…」。神機隊の生き残りを含む元藩士が後年まとめた「芸藩志」に、戦場の描写をはじめ当時の様子が克明に書き残されていたのに助けられた。

 広島藩は幕府と長州の戦争を収め、大政奉還に向けても大きな役割を果たしたが途中で表舞台から去る。明治新政府でも冷遇された。「薩長、薩長土肥で倒幕を成し遂げたというのは真実ではない。広島には平和な国をつくろうとした多くの優秀な人材がいた」。維新150年に向けて地元で再評価の機運が高まり、埋もれた史料が掘り起こされるのを期待している。

 瀬戸内の島の高校を出て上京し、カルチャーセンターなどの講師をしながら小説を書き続ける。古里広島に目を向けた歴史小説は3・11がなければ生まれなかった。前作は被災地の人間模様を描いた。「取材で福島を歩くうち、戊辰戦争で死んだ広島の若者たちの墓があちこちの寺で大切にされてきたと聞いた」。とりわけリーダーだった省三が、放射線量が高い「帰還困難区域」に眠ることも。

 広島と福島の知られざる縁。主人公が戦死する「浪江の戦い」など小説のクライマックスの舞台は、原発事故から逃れた住民が帰りたいと願う古里にほかならない。「歴史に思いをはせることで福島の今、そして原発とは何かも考えてほしい」(岩崎誠・論説委員)(日新報道・1600円)

ほだか・けんいち
 1943年広島県大崎上島町生まれ。小説家。中央大経済学部卒。95年に「千年杉」で地上文学賞。昨年は大震災をテーマにした「海は憎まず」も発表した。東京都葛飾区在住。

(2014年7月6日朝刊掲載)

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