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連載・特集

ブンカの強豪 華道 安田女子中・高/広島市立工業高(広島市) 感性磨き平和の花咲け

 せみ時雨が注ぐ、原爆慰霊碑前の石畳。いすに置いた器を囲む女子高校生が、色鮮やかなヒマワリやホオズキを生け込んでいく。のぞき見る観光客やお年寄りたち。人々と交わり、生徒たちの心も開かれていく。

 生徒は安田女子中・高(広島市中区)の華道部員。1月から月1回、「平和の祈り」をテーマに平和記念公園(中区)で花を手向けている。「回を重ねるごとに、気持ちがクリアになってきた。それを感じてもらえれば」と、部長の高校2年森川絵怜菜さん(17)は笑顔を見せた。

 森川部長たち2年生3人組がこの取り組みを始めたきっかけは、昨年11月に京都市であった「Ikenobo花の甲子園」だ。全国屈指の高校華道部が集う大会。中国地区代表で初出場したが、上級生ばかりの他校にプレゼンテーションなどで圧倒された。「あれから本気度が変わった。花の表情を読み取る姿勢や、伝えたい思いが強まった」と山根早映子さん(16)。副部長の松苗響香さん(16)も一緒に話し合い、広島の高校生らしい生け花とは何かを探し始めたという。

 平和について考えてみてはと助言したのは、2003年から同部講師を務める華道家元池坊の広島支部長、西原芙美香さん。毎週木曜の放課後に教室を訪れ、部員一人一人がはさみを持つ傍らで生け方の基本を伝える。ただ型にとらわれず、それぞれの表現を大切にしている。来年で創立100年を迎える同校。華道部も長年続いており、07年に就任した水野善親(よしちか)校長(67)が「伝統文化にさらに力を入れよう」と後押しした。

 校長自らも10年以上の華道経験を持つ。「生徒が美意識を身に付けることで、グローバル社会に通用する人材になる」と説く。部活動が終わるころ、水野校長や顧問の安積英司教諭(47)、女性教諭たちも加わり、技を磨く。こうした学校挙げての取り組みが好成績を支えている。「花の甲子園」への出場や学内外での実演で知名度もアップし、部員は今春から10人増えて18人となった。

 自然信仰に根差し、大陸から伝わった仏教の供花を経て、平安の王朝文化や室町の建築様式の変化に伴い生まれた「いけばな」。多様な流派の一つ池坊をみても550年の歴史を刻む。「花は暮らしに必要だし、勇気や元気をもらえる。だから続くのでしょう」と西原さん。自身も幼いころ、つらいことがあると道端の花に語り掛けたという。

 西原さんの信念は、花を生けるのは平和を訴えること。部員がそれを受け継ぐ。「心に響く表現をしたい」。森川部長たち3人は再び全国の舞台を目指す。

 そのライバル校の一つが、「花の甲子園」に男子3人のチームで挑み、2010年に全国最優秀に輝いた広島市立工業高(南区)の茶華道部だ。当時、「フラワーボーイズ」として注目を浴び、彼らの後輩9人がいま、研さんを積む。

 校庭脇に立つ同窓会館2階の和室。練習を見守るのは、同校で約40年間指導してきた池坊広島相生支部長の岩堂朝子(ときこ)さん。「みんな一生懸命。私は少し手直しをして、あなたはどう思うと尋ねるだけ」と自然体だ。

 部長の3年戸田蛍一(けいいち)さん(18)は、梅雨明けをイメージして潤いの名残と暑の到来を表した。「色彩や形を創り上げていく達成感が魅力」と語る。昨年の「花の甲子園」では中国地区大会でチームスピリット賞を受賞。「団結力はもちろん大切。スランプに苦しんだ後、感覚的に生けられるようになった」と自らの成長を振り返る。

 ことしは2年と1年の男女3人が大会に挑む。先輩たちが培ってきた、友情と世界平和の花が開くようにとの願いをつないでいくつもりだ。(広田恭祥)

<メモ>
 全国の高校生によるいけばなの公開コンクールは、池坊華道会主催の「Ikenobo花の甲子園」がある。6回目となることしは中国地区大会が10月に岡山市で、全国大会は11月に京都市で開かれる。全国9地区の代表校(3人一組)がそれぞれのテーマに沿った作品を制限時間内に生け、プレゼンテーションをする。中国地方ではこれまで、安田女子、舟入、市立広島工=2回(以上広島)、益田翔陽(島根)が全国大会に進んだ。

(2014年8月2日朝刊掲載)

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